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3・偽りの学園生活

3-44・取れない手段

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「キゾワリはいったい何を考えているのか」

 ジアレフ司教が、案内を受けて客室へ向かうのを見送った後、ティアリィはファルエスタの国王夫妻に誘われて、彼らと共にお茶の時間を設けることとなった。
 話題など知れている。おそらくは先ほどのリアラクタ嬢の態度と、今、ため息交じりにルディファラ王が言ったように、キゾワリの思惑についてである。
 疲れた様子を隠さない態度は、そのままティアリィへの信頼を示していて、すっかり身内のような扱いなのだなとティアリィは思った。
 あながち間違いではない。ピオラが正式にこちらへと嫁に来れば、彼らとは縁戚関係となるのだから。少なくとも国が隣にある程度の関りしかないキゾワリなどとは比べ物にならない親密さであるのは事実だった。
 シンビュジエ王配殿下はともかく、ルディファラ王自身とは年が近いというのもあるし、彼らの人格的なものもある。
 すっかり、友人のような関係が築けているとは、ティアリィも感じていた。
 だからこそ本来なら部外者とも言えるティアリィの前で、信頼してこのように心情を隠さずにいてくれている。
 彼らの向かい側のソファに腰掛けたティアリィはひょいと、困ったように肩を竦めた。

「さぁ? リアラクタ嬢をユーファ殿下に娶わせたいというのは伝わってきますけど、それ以外は何も」

 少し調べただけでもキゾワリの内情は聞くに堪えないほどひどく、様々な者の思惑が錯綜しているようでもあった。
 つまり、具体的な国として方針というものが見えてこないのである。

「あの国は聖王の子供をわけがわからないぐらいの数、作って、いろいろな所に送り込んでいると聞いている。縁を作ってそこから遠隔で影響を与えたいという意図が、あるのだろうとは思うが……」

 その割にはやり方が杜撰なのだ。
 ルディファラ王が疲れたように吐き出した言葉に、ティアリィも大きく頷いた。

「こちらが調べた結果もそんな感じですね。もう少し詳細に情報を得る方法がないわけではないんですけど……」
「貴方の負担になるようなことまで、こちらとしてもお願いするつもりはありませんよ」

 ティアリィが何を想定したのかが分かったわけではないだろうに、ルディファラ王は止めるような言葉を口にした。
 ティアリィとしても、出来れば取りたくはない手段だったので素直に頷く。
 ティアリィがちらと考えたのは、読心である。人の思考や記憶を読むことも、出来るか出来ないかで言えばできるのだ。
 ただし、これは流石に誰でもできるような術ではなく、他者に任せられるようなものでもなかった。
 必然、ティアリィ本人が動くということになってしまうのだが、それは誰にであっても止められるだろう自覚ぐらいティアリィ自身も持っていた。
 現にルディファラ王は、そんなことまではわかっていないだろうに止めてきていて。
 ならばと余計に二人して、頭を悩ませることとなってしまった。
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