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3・偽りの学園生活
3-26・ファルエスタの現状①
しおりを挟むファルエスタは国としてとても立場が弱い。
18年ほど前に大規模な簒奪劇があり、その際、当時国の中枢にいた者達は軒並み処刑された。
抵抗する時間も与えず、少しでも反抗したものは見境なく、容赦なく、全員の首を物理的に飛ばしたと聞く。
……――他でもない、今、目の前に座る簒奪者であり、前国王でもある王配によって。
今、この国を動かしているのは、その時に大粛清から逃れた従順で臆病な性質の者と、その後、台頭してきた、元は下級貴族や庶民だった者ばかり。
当然この醜聞は周辺国の知ることであり、それも含めファルエスタの国力と評価は一度、地に落ちたと言ってよかった。
ただし、それと庶民や国民の意見とは別だ。
前国王は逆らう者には容赦なかった。在位期間二年の間に彼に注進して首を飛ばされた者は数知れず。一方で逆らわない者に対しては平等で身分を問わず、平民でも逆らわず、従順で優秀な者は重用した。
正直、恐怖に塗れた2年だったと言っていい。しかしそれは彼自身の周辺に限ったことで、そこから遠ざかるほどに別な評価を受けるに至った。
国民や庶民の目線で見て、彼の統治は決して悪いものではなかったからだった。あるいはそれまでの高位貴族が腐り切っていたというべきか。
国が上層部が軒並みすげ変わると、国の体制は当然変わる。
上がいなくなったのだから、変わりは下から出てくることになる。その際、代表に立った元庶民に、優秀な者が多かったのは前国王のただの幸運に過ぎないのだろう。機会をうかがっていた心ある、時流を読むのに長けた者がこのまたとない変化の兆しを逃さなかったのも大きい。
単純に高位貴族が減ったので、かかる費用も当然減り、国民に対する税金が緩和された。
前国王は贅や富に全く興味を示さず、実際の執務は必要最低限で、かけられる全ての時間を王妃の間に捕えた元王太子に割くことに腐心した。
とにかく彼を放さず、部屋から出さず、誰にも会わせなかったと聞く。
そしてそれを邪魔する者には容赦がなかった。
だが、当然、金などどこにもかけない。余った予算は国民へと広く分布されるに至った。勿論、現金を配ったというわけではなく、税の緩和という形で反映されたのである。
処刑した貴族の財も容赦なく没収していて、金が余っていたので、税収が必要なかったのだ。
加えて彼は不正を許さなかった。
と、言うよりは、不正やすり寄りなど、目立つ行為をした者の首を容赦なく何人かはねただけなのだが、首をはねられた者の中に後ろ暗いことに従事していた者が何人か含まれていたものだから、皆、明日は我が身と彼の目につきそうなことをしなくなったのである。
その上、王の目が行き渡らないことで良くないことをしようとした者も、王に気付かれた瞬間に問答無用で首をはねられた。
前国王の正義感のようなものは、ある意味振り切れてはいたが、基準そのものはそれほどおかしなものではなかったのだろう。嘘を見抜く目も持っていた。
実は怠けた者にも容赦はなかったが、しっかり黙々と仕事をしている者には何もしなかった。
誰しもが我が身はかわいい。
死にたい者などいるはずがない。
皆、淡々と自分の仕事だけを誠実にこなした。
そしてそれは国内すべてに波及し、結果的に治安が向上するに至ったのである。
悪いことをすれば首をはねられる。だから、目立たず正しく日々を過ごす。
これまで高位貴族を顧客としていた商人などの一部は国外に出てしまったが、それもいい風に作用し、新しい商いが成り立つための土台へと変化した。
凡そ正しくただの恐怖政治なのだが、減った税収と向上した治安。その二つだけでも国民に受け入れられるには充分で、いろいろあった後、新しい国王の王配に収まった際も、少なくとも国民からの目立った反対はなかったらしい。
ちなみに、前国王に捕らわれていた元王太子が現在のルディファラ王である。同じく目の前にいる。
同時にユーファ殿下の両親でもあった。
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