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3・偽りの学園生活
3-18・釘刺し
しおりを挟むともあれティアリィはそうしてミスティから言質を取り、学生として通う許可を得た。
ミスティはあの後、物凄く嫌そうな顔をして、それなりにごねて食い下がってきたのだけれど、そうすればそうするだけ、ティアリィの機嫌が悪くなっていくのを見て結局は諦めて、いくつかの条件の下、最終的には許可せざるを得なくなったようだった。
それを聞いたアーディとグローディは腹を抱えて笑い、ミスティは苦い顔で眉根を寄せ、ティアリィは不承不承ながらも、王宮に帰る度、ミスティとほとんど必ず顔を合わせるようになった。
それが条件の一つだったからだった。
ポータルが設置されたのをいいことに、ミスティは時折、ファルエスタまで足を運ぶようにすらなっていて……――だから、今。
キゾワリの王女にハメられて、嫌がらせだろう、びしょ濡れになった所を、ミスティに見られたのは、あり得なくはない話ではあった。
それはそれとして、こんな真昼間に仕事はどうしたのかと聞きたくはなるのだけれど。どうせミスティのことだ、何とかやりくりして予定を開けたのだろうとは思う。ティアリィがそうして学園に通っているのと同じように。
ティアリィは溜め息を吐いた。
ミスティから漂う雰囲気が冷たい。怒っているのは明らかだ。
「落ち着いてください、ミスティ。あんなの、可愛らしい嫌がらせじゃないですか。油断してた俺も悪いんです」
「君に非なんて、何処にあるって言うんだ。嫌がらせなんて、する方が悪いに決まってるだろう?」
ティアリィの説得など、勿論ミスティには通じない。
なお、ミスティは別に正義感で怒っているわけではない。彼の最愛が嫌がらせを受けた、それだけで怒りの対象となるのである。
特に相手があのキゾワリの第十三王女だ。ティアリィ初め他の者からの報告でも、元々いい印象を抱いていなかった。
「だとしても。ミスティは何もしないでくださいね」
怒っているのが明らか過ぎて、ティアリィはせめてと釘を刺す。
そうしないと、いったい何をしでかすのかと思うと恐ろしくてたまらなかったからだった。
ミスティは、これでもあの大国ナウラティスの皇帝だ。
勿論、小さい頃からの教育もあり、権力を振りかざすことなどしないだろう。
しかし、彼個人の能力値自体が高く、剣の腕前もさることながら、特に魔法や魔術に長けている。加えて、ティアリィでは思いつかないような謀略や暗躍も得意だ。
伊達にあの帝国の皇帝などしていない。
とは言え、そもそもナウラティスは国の特性上、皇帝位にいる人間の能力値など問題とされず、ある程度の書類仕事さえできれば、ミスティほどの優秀さなどなくとも皇帝となれた。
大切なのは血筋と人間性で、何よりも彼の国の守護結界に抵触しない存在である必要がある。
実はそういう意味ではミスティはギリギリなのだが、それはティアリィの知らないこと。
とにかく、歴代の皇帝の中でも突出した能力値を持つと言って過言ではないミスティは、ことこう言った場合、何をしでかすかわからない所があった。
それこそ、逆鱗に触れたら、あの守護結界さえどうなることか。
ある意味では危ういことこの上ないミスティの軛は、当然と言えば当然ながら、実の所ティアリィに他ならなかった。
つまり、ミスティに対抗し得るのがティアリィだけなのである。
ちなみにティアリィにそんな自覚はない。周囲の人間は皆、わかっていることなのに。
そこがティアリィがティアリィたる所以だろうか。今も。
手を出すなと言われ、あからさまに不満そうなミスティを、凍り付きそうな視線一つで黙らせている。
普段の恋心に振り回され、戸惑い逃げ惑うかわいらしさは何処へ行ったのやら。
手を出すな。
そんな釘刺し一つでミスティを牽制したティアリィは、つまりリアラクタ嬢のあの嫌がらせに、明確な報復をするつもりなど初めからなかったのだった。
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