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3・偽りの学園生活
3-17・交渉?
しおりを挟む「ごめんね、久しぶりに会えたものだから堪えきれなくて」
行為の後。そんな風に殊勝な様子で謝られたところで、ティアリィのわだかまりがなくなるわけがない。
荒い息を整えてからこちら、ティアリィはミスティとは一向に目を合わせようとしなかった。
予想はしていた。
ミスティのことだから、きっとこんなことになるだろうとは。
予想していたとしても、だからと言って、納得していたかというとそれはまた別の話だ。
随分と性急で、あまりにティアリィの心情を無視した行為。
そもそもミスティにはもとよりこういう所がある。こと、こうして触れてくる時は特に。
今までティアリィはそれを全て拒絶せず許容してきた。
特に不快に感じたことがなかったためだ。抵抗感がないわけではない。ましてや求めていたことなど一度としてなく、強引な誘いには辟易することさえしばしばで。この6年に至っては、逃げては捕まり、魔術と魔力に酔わされ、前後不覚になっては体の奥深くを探られた。それをどうして歓迎できるというのか。
だが、触れられることそのものについては、嫌なわけではないのも事実だった。
ミスティのことは嫌いなわけではない。むしろ好きなのだ。恋をしている。
でも。
追いついていない。
それが本当の所。
たとえ一ヶ月やそこら、時間を空けたところで、ティアリィの心情は変わらないまま。ミスティへのわだかまりは解けてはおらず。だからこそ、こんな風に謝られたところで、寛容に頷くことなどできなかった。
目の前で、座り込んだまま服さえ整えないティアリィに合わせて、跪いたミスティから困ったような気配が漂ってくる。
困ればいいのだ。
そういうことを、ミスティはしたのだから。
「ねぇ、ティアリィ。いい加減、機嫌を直してはくれないかな。僕が悪かったから」
機嫌を取るようにそう言ってくるけれど、おそらくミスティはわかっていない。
ティアリィが何にこだわって、なぜ、こんな行動に出ているのか。
それは今、目を合わせないようにしていることだけではなく、一月前にミスティにだけ言わず国を出たことも同じ。
もしかしたらミスティは、説明したところでわからないかもしれないとも思う。
だってきっと、気にしているのはティアリィだけなのだ。
こんな、こんなこと。
俯いて、ぎゅっと自分の腹を抱えた。何も宿っていない其処。どれだけ注がれても、ミスティの魔力を凝らせられなくなってしまった自分の体。
それが、ティアリィにとって、どれほどの意味を持つことなのか。
あんなにも。まるで子供を求めているかのようにティアリィに魔力を注ぎながら、それをどっちでもいいなんて言ってしまえるミスティにはわからない。
でも。
逃げ続けるにもこの辺りが限界だろうことは流石のティアリィにもわかっていて、同時にこれ以上、全てを捨てて逃げ切ってしまうつもりもまた、初めから持ち合わせていなかった。
だって、子供もいるし、立場もあるし、それに。
ちらと、ミスティを見る。
弱り切った顔で、どうにかしてティアリィの機嫌を取ろうと必死になっている情けない姿。
これでも、この帝国の皇帝で、仕事ぶりには問題がなく、見た目もいい。
ミスティの優秀さは知っている。5歳の時から。ほとんど、共に育ってきたと言ってもいい相手だった。
好きなのだ。気持ちが離れたわけではない。だからこそ、わだかまりを抱いてしまう。
別れたい、わけでもない、でも。
時間が欲しかった。もう少し自分の気持ちを、整理したかった。
「……まだ、帰れません」
まだ、しばらく。こうして捕まって、こんな行為に引きずり込まれてしまったけれど、だからと言ってこのままなし崩しでなど戻っては来られない。
ティアリィの意見は、予想していたのだろう、一瞬息を飲んだミスティは、しばらく黙って、やがて溜め息を吐いて首肯した。
「いいよ、わかってる。でも、これまでみたいに会わないなんてのはなしだ」
不承不承、ティアリィは頷く。
こうなった以上、流石にティアリィも、そうは出来ないだろうと自覚している。
多分、おそらく高確率で、子供たちに会いに戻ってきたら、同時にミスティにも捕まるのだろう。
それは仕方がないと言えば仕方がない。
「ポータルは、設置できましたけど……まだ、あちらの状況は確認しきっていませんし、学園も確かめなくては、ピオラ一人で置いてくることなんて出来ません」
いくら護衛と侍女が一緒だと言っても、出来れば自分の目で見極めない。何せそのためについていっているのだから。
「うん、そうだね。気が済むまで確かめてくるといい」
ミスティは鷹揚に頷いた。
だからティアリィはもう一つも伝えてしまうことにする。これは昨日向こうから提案されたことで、まだミスティは絶対に知らないだろうから。あと、このまま押し切らないともしかしたらミスティは許可しないような気もするから。
と、言うか、それについてはティアリィ自身も、少し不本意に思ってはいるのだけれど。
「……それと、俺、学生としてピオラと……と、言うか、相手の王太子殿下と学園に通うことになったんで」
流石のミスティも、これを告げると固まった。
「え?」
驚きに目を見開いているのを見て、少しだけ留飲を下げる。
「気が済むまで確かめてきていいんでしょう? だから確かめてきます。学生として」
先程のミスティ自身の言葉尻を捕らえてそう告げると、ミスティは驚いた顔のまま、面白いぐらいに固まっていた。
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