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3・偽りの学園生活

3-11・理解できない

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 ユーファ殿下とリアラクタ嬢は、どうしてあれほどまで仲が良くないのだろう。
 ティールは不思議でならなかった。
 ユーファ殿下はいい人だ。態度が少々暑苦しかったとしても、明朗で快活で、偉ぶった所がなく、周りの人全員に親切なようにティールには見えた。
 その上、努力家でもある。
 いざという時の決断力、だとかいう部分は、現状見る機会に恵まれていないので、王としてどうなのかなどという話になると流石に判断しきれない所がありはしたのだが、充分に何の瑕疵もないようにティールの目に映った。……――そう、ただ一つ。リアラクタ嬢への対応を除けば。
 とは言え、彼女にだって笑顔で接してはいる。礼に失した態度でもない。言っていることは大概だったが。
 余程彼女の存在が気に食わないのだろうということぐらいはわかるのだけれど、それにしてもとティールは思ってしまうのだ。
 だって、リアラクタ嬢は必至だ。
 必死で、自身のプライドが許す限りの譲歩をして、ユーファ殿下に歩み寄ろうとしている。
 それは健気と言ってもいいほどで、それをあれほど邪険に扱うだなんて。
 リアラクタ嬢との応酬を目にする度、その後どうしても非難がましい目でユーファ殿下を見てしまうティールのことを、ユーファ殿下は困ったように宥めるばかりだった。

「ユーファ殿下。あれではリアラクタ嬢がお気の毒ではございませんか?」

 控えめ・・・に、言葉にして避難してみたこともある。
 だが、ユーファ殿下にはティールの言葉は伝わらず。

「ティール……不快な思いをさせてしまっていてすまない。だが私としては彼女と関わる気はないんだ。だからと言って、あれほどティールを目の敵にするなんて」

 そう言いながら逆にリアラクタ嬢への怒りをあらわにするしまつで。

「いえ、そうではなく、俺は、」
「ティール。とにかく今後は、私ももっと屹然とした態度で彼女に接していくので、もう少し待ってくれないか?」
「いえ、ですから……」

 待つも何も。
 そもそもティールは彼女に目の敵にされていることなど、まったく本当になんとも思っていないのである。
 にもかかわらず、なぜこんなにもユーファ殿下がそれに怒っているのかがわからない。
 確かに今、ティールとユーファ殿下は友人と呼んで差し支えない関係を築けているとは思う。
 だが、言ってしまえばただそれだけ。
 ミスティのように伴侶であるだとか、それ以上の親しい間柄・・・・・ならともかく、ティールが誰の恨みを買っていようと、ユーファ殿下には微塵も関係などないはずなのに。
 どれだけ言葉を重ねても、ティールの言葉はユーファ殿下には伝わらず、謝られるばかりで、しまいにはティールは何も言えなくなってしまった。
 謝って欲しいわけではなかったし、むしろ謝るのなら、リアラクタ嬢の方にこそそうして欲しいと思っているからだ。
 ユーファ殿下はとかく、リアラクタ嬢との相性が激烈に悪いようで。
 そんな話をピオラや他の皆にすると、ピオラはからからと笑って、

「ティールったら。存外に残酷でらっしゃいますのねぇ」

 そんなことを言い、アーディやグローディに至っては呆れたような目で見られ、溜め息を吐かれる始末。
 だが、このような状況では、ティールも学園を離れるわけには行かなくなっていた。
 少し前まではもういいかとまで思い始めていたというのに。
 少なくとも、リアラクタ嬢の件が何らかの形で片が付かない限りは、現状を変えない方がいい気がしている。
 今は接点がないせいか、リアラクタ嬢の関心はピオラには向かっておらず、もっぱらティールが引き受けているのだが、これでもしティールがいなくなってしまったらどうなることか。
 いくらポータルは設置済みなので、逃げてくるのが容易だとはいえ、目に見える脅威は取り除いておかなければ。
 ユーファ殿下だってもちろん、頼りにならないというわけではないのだけれど。
 まだまだ付き合いが浅く、ピオラを預けきるに足るとは、現状ではティールには到底思えないままだった。
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