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3・偽りの学園生活
3-2・王太子とピオラ
しおりを挟む結局、ティアリィのかけた変化の術は、旅で使用していたものと同じ。容貌自体は変化させず、髪と目の色を変え、魔力を抑えただけのそれとなった。
何せ周囲に訊ねたら全員が全員、それで問題ないと言い切ったのだ。
ピオラさえ、
「お母様はもともとお若くていらっしゃるから……確かに、そう言われて改めて見てみると、学生、と言われて不自然ではございませんわね」
などと太鼓判を押し、アーディには呆れたような目で見られつつ、
「今更、何言ってるの? 母様、元々それぐらいにしか見えないよ」
などと吐き捨てられ、グローディも隣でしきりに頷いていた。
もしやまさか、てっきり年相応程度の見た目だとばかり思っていたけれど、自分の認識がおかしかったのか? と、ティアリィ自身さえ迷う始末。
そんなに言うのならと開き直った結果だった。
なお、そもそもティアリィは今回、あくまでもピオラの護衛として同行していて、国王夫妻や宰相、騎士団長などの上部の者はともかく、その下や末端の者たちは、ティアリィのことを護衛騎士であり、かつ、ピオラの叔父に当たる、ただの公爵子息だと認識している。
それはユーフォルプァ王太子殿下も同じで、特に殿下には知らせないでおくこととなった。
何故ならおそらくその方が、飾り気のない彼の人物の姿が見れるだろうからとの判断だ。
つまり殿下はティアリィのことを、婚約者候補の護衛として他国から来た同じ年の少年だと思っているということだった。
流石に国王夫妻が、護衛とは言え公爵家子息で、国賓でもあるとは告げてくれたようで、初めて会ったユーフォルプァ王太子殿下は人懐っこい笑顔で笑いかけてきて、
「わからないことがあれば何でも頼るといい」
なんて、頼もしいことを言ってくれた。
ユーフォルプァ王太子殿下は、国王夫妻の両方に似ていて、だが、同時に両方に似ていなかった。
顔の造作そのものは王配殿下よりだろうか。男らしい美貌の持ち主で、まだ16になる所だというのに、すでにティアリィより頭半分ほどもでかい。体格もよく、体の厚みが全然違った。ミスティと同じか、それより少し劣るぐらいだろうか。年齢を考えると、もっと逞しくなるのかもしれない。
髪と目の色はルディファラ王と同じ、金髪碧眼だ。色は流石にルディファラ王より少し濃い。とは言え、魔力量も王族としては充分な程度。
何より違うのはその底抜けに明るく見える快活な表情と、彼自身を構成している魔力。
確かに、核は王配殿下のものだろう。それは疑うべくもない。だが同時に彼自身を構成している魔力は主にルディファラ王のもので、更に様々な人物の魔力が混じり合っているように見えた。
少なくとも、ルディファラ王は腹に彼を抱えていた間、王配殿下以外の数多くの人間の魔力も受けていたということだ。とは言え、それぞれから受けた魔力自体は少量のものだったことだろう。少なくとも接触は肌に触れた程度ではないかと思う。例えば手を握るだとか、そういうことだ。なにせ本当にたくさんの魔力が混ざっている。とにかく出来るだけ多くの人たちから魔力を与えてもらったのだとでもいうかのように。
だからこそ、似ているのに似ていない存在となっていた。
彼が出来た時の経緯を考えると、理解できなくもない話だった。
むしろそうして生まれてきた割に、快活に過ぎる明るさの方こそおかしく見えるほど。
もっとねじ曲がっていてもおかしくはない環境に育ったはずなのに、ユーフォルプァ王太子殿下は過ぎるほど真っ直ぐな人物のようだった。
とにかくティアリィに親切なのである。
勿論、ピオラに対する態度も丁寧で、礼儀正しく、同時にほんの少しの親しみも滲ませ、現状、ティアリィの目にマイナスとなる要素が見当たらないほど。
反面、ピオラの態度は何処までも普通で、熱も何もない様子だったのだが、こちらはまだ実際に出会って間もないこともあるし、今はこんなものなのではないかとも思った。
実際、ピオラに訊いてみても、
「明るい方ですわよね」
と言うばかり。特別何か彼自身に、感じるものなどないらしい。
ユーフォルプァ王太子殿下は充分な美丈夫だし、ピオラだって、ティアリィには似ていないとはいえ、可愛らしい見た目をしている。年の差も2歳とちょうどよく、お似合いに見えなくもなかったのだけれど。
「お母様。そんなに焦らずとも、そういったものはもっとゆっくり育むものですわ」
などとピオラ本人に言われてしまえば、ティアリィにはもう、言えることなど何もなかった。
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