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2・旅程と提案
2-21・国王夫妻
しおりを挟む約一か月に及んだ逃亡劇が、長かったのか短かったのか、それはティアリィにはわからない。
ただ一つわかっているのは自分の心情。つまり、まだ整理がついていないという事実だけだった。
残りの旅程は何事もなく過ぎた。キゾワリに入国する際のことがあったので、少し日数が後ろにずれ込みはしたものの、それも想定の範囲内でピオラの入学までには余裕さえある。
ポータルの設置も、それまでに完了するだろうと思われた。
結界に阻まれたという事実があるだけで、宰相にもおかしな様子は見られない。きっとそれがなければ何も不審に思わなかっただろうという程。
騎士団長との中だって良好なように見えた。
だが、結局は結界に触れられないまま。
ならば誰に対して、何に対してかはわからないが、悪意や害意を持っているということだ。
それがピオラに対してでなければいいと、ティアリィは思っている。
この結界は、誰に、何に、という部分を特定するようには出来ていないので。
ティアリィと同じく宰相のことを把握している他の護衛や侍女、ピオラさえそれに付いては何も顔にも出さなかった。
ピオラの年齢を考えると、充分なほど見事なポーカーフェイスだ。そういう部分はもしかしたらティアリィ以上かもしれないと思ううちに、本当に数日で王都に着いた。
学園には寮があるので、入学以降はそちらになるが、それまでは城に滞在する予定だ。
着いた途端その足で促され、まずはと言わんばかりにここファルエスタの国王夫妻に会うことになった。
通されたのは謁見の間ではなく応接室のような場所。
向かい合わせに、王城に相応しいソファセットが配置されている。
案内されたのはティアリィ一人で、護衛は一人連れてきはしたものの、ピオラは呼ばれていなかった。
勿論、ティアリィの本来の身分を知っていて呼んでいるのだろう。それを裏付けるように、座るよう示されたのは扉から見て奥、つまり上座に当たる場所で。
いったいどんな話があるというのか。まさか宰相のことではあるまいと思うので余計にティアリィだけを先に呼ぶ理由がわからない。連れてきた護衛はハヌソファだったのだが、彼はティアリィの背後に行儀よく立っている。
程なくして国王夫妻が席に着いた。
「お待たせして申し訳ない。ようこそ、我が国にいらっしゃいました。着て下さって光栄です。ナウラティス帝国皇后陛下」
「こちらこそ、お会いできて光栄です」
当たり障りのない挨拶を返しながら、目の前に座る二人の姿を観察する。初対面というわけでもないのだが、こうまじまじと見るのは流石に初めてだった。
友好国とは言え、これまではさほど親しくもなかったので。
目の覚めるような、と言えばいいのか。ティアリィ自身はともかく、ティアリィはミスティほど美しい人間はいないと思っているのだが、この国王だというティアリィよりいくつか上ぐらいの青年――……確か名前はルディファラと言っただろうか。も、充分なほどの美貌を有していた。
艶やかな蜂蜜色の髪に、碧というに相応しい、緑がかった青い目をしている。保有しているらしい魔力の量もそれなりに多く見えた。少なくともピオラよりは断然多く、おそらくミーナに少し劣るぐらいだろうか。
隣に座る美丈夫が、おそらくは例の王配だろう。シンビュジエ・ファルエスタ。前国王であり、王位の簒奪者でもあると聞いている。魔術の腕に長けた人物だと聞いているのだが、その魔力量自体は、それほど多いわけでもないらしい。濃い紫の髪に、やはり濃い緑色の瞳をしていて、グローディと同じか、それにさえ少し足りないぐらいだった。
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