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2・旅程と提案

2-20・複雑な心境

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 翌朝、王宮に戻ると、幸いにしてというべきか、ミスティとは合わずに済んだ。
 コルティを彼女付きの侍女に託す間も、ミスティの気配はない。
 ミスティのことだから、すぐにも接触を図ろうとしてくるのではないかと思っていたのもあり、正直拍子抜けだった。

「母様」

 代わりのように、アーディが声をかけてくる。
 きょろと、まだ少し周囲を見回してしまったティアリィにアーディはくすと苦笑した。

「父様をお探しですか?」
「あ、ああ、いや、探しているというか……」

 警戒しているというか。言葉に詰まったティアリィを見て、アーディは今度は安心させるように笑みを浮かべた。

「心配なさらなくても父様はいませんよ」

 僕がしっかり言い聞かせておきましたから。
 笑みを深めてそんなことまで言う。
 言い聞かせた、とは、いったい。
 一瞬疑問に思ったが、敢えて突っ込まずに、小さく頷くにとどめた。

「だって母様、まだ父様にはお会いになりたくないのでしょう? 父様にもそれは伝えてありますから。今下手に動くともっとこじれますよ・・・・・・っていう忠告と一緒に」

 アーディの身も蓋もない言い方に、だが、ティアリィは抗うすべを持たず、ただ、躊躇いがちに頷くのみ。ただ、とりあえず今はミスティに会わずに済むということだけはわかって、少しだけほっとした。
 同時にどこか残念でもある。
 ティアリィだって会いたいとは思っているのだ。でも。
 今はまだとうてい落ち着けていなかった。ミスティのことが、好きだと思う自分の気持ちに変わりはない。ただ、どうしてもあの発言が心に引っかかっていて、自分の中での整理がついていないままだった。
 このままずるずると会わないままでいることがいいことだなんて、勿論ティアリィだって思ってはいない。それでももう少しだけ時間が欲しかった。
 そんなティアリィの心情を、この優秀な息子は余さず汲んでくれているようで。こんなに頼りきりになるなんて、親としては情けない限りだ。

「とにかく、あまり気になさらないで。でも、僕が父様を止められるのは、向こうにポータルが設置されるまでですからね。今は母様の具体的な現在位置が分からないっていう理由で止められてますけど、ポータルの設置が完了したらその理由も使えません。心に留めておいてください」
「ああ。わかっている」

 流石のアーディもそれが限界だと告げられて、ティアリィは今度は慎重に頷いた。
 現状すでにファルエスタ国内には入国していて、あとは王都へ向かうのみ。距離からしても、それほどの日数はかからない。
 旅程は終わりに近づいていた。
 それは同時にティアリィが、ミスティから逃げていられる期間の終わりでもあった。
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