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2・旅程と提案

2-17・会いたい、だから①(ミスティ視点)

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 その日。別に何か予感があった、だとかいうわけではなかった。
 いつも通りミスティは仕事をしていたし、いつも通りにティアリィが恋しかった。

「ああ、ティアリィ」

 呟きながら暇さえあればティアリィからの手紙を眺めるのはすでに習慣化していて、もはやそれは傍から見ていて依存のレベル。
 子供たちが、理解できないというような顔でミスティを見てくることには勿論気付いていたけれど、だから何だというのだろう。
 其処で何かを思うぐらいなら、早くティアリィの居場所を教えて欲しい。
 そしたらすぐにも連れ戻しに行くのに。否、追っていく、だけだろうか。どちらでもいい。ただ、会いたかった。
 だが、子供たちは慰めのようにたまに手紙を寄越すだけで、ティアリィの情報を教えてはくれず、あのコルティでさえも口を噤んだ。
 もっとも、ミスティは元々ティアリィほどには子供達と長時間接してなどおらず、精々が朝と夕、食時を共に摂る程度。それ以外だとごく短時間、触れ合うこともあるけれど、何分抱えている仕事も仕事なので、子供に割ける時間はほとんどなかった。
 子供たちの方から会いにでも来てくれたなら、仕事をする傍ら、会話を交わすぐらいはできるのだが、残念ながらどの子も皆ミスティには会いに来てなどくれず。寂しいばかりなのだが、仕方がないと割り切ってもいる。
 ミスティにしても、そこまで子供達に気持ちを割いてはいないせいだった。
 思えば子供たちの中で、一番まともにミスティに甘えてくれたのはピオラだったかもしれないなどとも時折思い返す。
 アーディとグローディはもともとの性格もあるのか、それともそういう年頃なのか、いっそミスティを疎ましがっているような雰囲気を見せる時があり、コルティは幼すぎる為か、とにかくティアリィにべったりで、ミスティにはあまり関心がないようだった。もっとも、構えば年相応に懐く様子も見せてはくれるのだが。
 ちなみにミーナの姿はここしばらく見てすらいない。
 元々ミーナは頻繁に王宮を抜け出しては城下に通っているらしく、朝食、夕食時にすら顔を見せないことなどざらで、ティアリィがあまりにひどい時には叱り飛ばしたりもしていた。だが、定められた範囲の勉強に差支えがなく、かつ、無事大きな怪我もなく戻ってきている以上、あまり煩いことも言えないようで、あの奔放さはいったい誰に似たのかと悩むこともしばしばだった。
 ミスティに言わせればティアリィに似ているのではないかと思うのだが、それでもティアリィはあそこまでの好奇心は持ち合わせてはいない。
 とにかくミーナの姿が見えないことをミスティはさほど深くは考えておらず、またかと思う程度。アーディが大丈夫だと言い切っていたため、何かあったのでは、などというような心配もしてはおらず、ただ、少々姿を見ない期間が長くなってきているので、そろそろ一度探してみた方がいいかもしれないとは思い始めてはいた。
 その程度にはアーディのことを信頼しているのだ。あの子はとにかく年不相応にしっかりしているので、ミスティもつい過剰に頼ってしまう。
 見た目はミスティに似ているのだが、中身の話だと、一番ティアリィに似ているのではないかという印象を受けた。
 なお、見た目の話になるとミーナはどちらかというとティアリィに似ている。所々ミスティに似ている部分もありつつも、見た目だけなら儚げな美少女に見えなくもない辺りなど、ある意味ではティアリィにそっくりだった。
 ティアリィも見た目だけなら大変儚げな美貌を誇っているので。
 ともあれミスティは恋しいティアリィの気配をかろうじて手紙からかぎ取りつつ、じりじりとアーディの様子を伺い、隙あらばティアリィの情報を教えてもらおうとする日々だった。
 その日アーディを探していたのもその一環。
 夕食の時間を過ぎてすぐ。ティアリィがいない間、一部、彼の仕事を請け負ってくれているらしいアーディに確認事項があったことを思い出して、翌日でも構わなかったところを、わざわざ探そうとしたのは仕事にかこつけて話しかけ、少しでもティアリィの情報を引き出せないかという打算が頭をよぎったせいだった。勿論、ミスティは実行に移す。
 アーディの私室に向かうと、中に人の気配がした。どうやら部屋にいるらしい。
 よかったと内心安堵しつつ、ノックも省いてドアを開ける。無作法だと怒るだろうかなどという考えは、その時のミスティには存在しなかった。
 否、ティアリィを欠いてからこちら、ミスティからはそういった当たり前の気遣いや礼儀のようなものが一部、抜け落ちてしまっていたのは確かで、誰からの指摘もなかったせいで、気付いていないだけだった。
 本来なら親子であっても、ノックの後入室の許可を取る所をいきなり扉を開けるなどという暴挙に出たのは、つまり深い意味があったわけではないということだ。
 だが、後々考えると、ミスティはそうした自分を褒めたい気持ちにもなった。
 何故なら。

「アーディ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、」

 言いながら入室した部屋の中にいたのは、アーディだけではなく。コルティを抱えた見慣れない誰か・・・・・・・の姿。

「あ」

 その誰か・・と視線が合う。瞬間、わかった。そもそも、たとえ認識阻害がかかっていたとして、こうして改めて見てみると、ミスティに分からないはずがなかったのだ。見慣れない、と先程思った姿がブレる。だがすぐに定まって、残ったのは髪色と目の色が違うだけの愛しい姿。
 名前を。呼ぼうとして口を開いた。と、ほぼ同時に、相手の姿が掻き消える。転移の魔法。

「ティアリィ!」

 呼びかけは届いたかどうかすらわからなかった。
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