結婚10年目で今更旦那に惚れたので国出したら何故か他国の王太子に求婚された件。~星の夢2~

愛早さくら

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2・旅程と提案

2-15・国境での化かし合い

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 合流して後、最後の集落で1泊し、早朝から数時間、然程、険しくはないものの山道を進むと、ファルエスタとの国境にある検問所にたどり着いた。
 見ると向こう側では見える位置で、ファルエスタ側の出迎えが待機してくれている。
 顔ぶれを見ると、先方の宰相と騎士団長が一行の中に含まれていた。
 到着すると同時ぐらいに、検問所の中から入国の際にも顔を合わせたジアレフ司教が歩み出てくる。
 彼と別れた時に目の前で変えて見せた時の姿に戻していた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬車を見て、残念そうな顔を見せる。

よかった・・・・、無事だったんですね……」

 とてもよかったなどとは思ってもいなさそうな声で小さく呟いた。
 ティアリィはそれに目を細め、ちらとファルエスタ側の出迎えを見る。
 彼らは何も知らぬ顔をして其処に立っていた。
 確かに、考えてみればすぐにわかることだった。ティアリィ達の変化させた後の馬車の姿など、知っているのは彼ぐらいのものだったのだから。だが、ファルエスタの目もある今この場で、これ以上何かできるとは思えない。もっとも何かあったとしても切り抜ける自信はあるのだが。
 顔に出ている辺り、大した存在とも思えない。
 まぁいいかとそれはさておき、にこやかに司教へと近づいた。

「お久しぶりですね、ジアレフ司教。おかげさまで、無事此処まで来ることが出来ました。忠告してくれて助かりました」

 何も知らない顔をしてそう告げた。
 司教は一瞬びくりと体を揺らして、次にゆるゆるとようやく口元を笑みの形に引き上げる。

「お役に、立てたようでしたら……よかったです」

 握手などは交わさない。それが出来る位置まで、彼は近づいては来なかった。思えば入国の際にも、そこまでは近づいてこなかったなと思い出す。つまり、はじめから・・・・・かと。

「色々とお世話になりました。では、これで」

 短い言葉を交わして、早々に先へ急ごうと歩み始めたティアリィの背を、しかし司教が呼び止めた。

「あの、」
「何か?」

 振り返る。目の前で司教は少しためらって、ややあって小さく口を開いた。

「少し、遅れはするのですが、我が国、聖王のご息女も、ファルエスタに留学する予定なのです。同じ立場・・・・の者同士、どうぞ気にかけて頂ければと」

 それを聞いて、ティアリィはなるほどと目を細めた。だがすぐに小さく微笑んで。

「そうだったのですか。それは存じませんでした。充分に気にかけさせて頂きます」

 如才なく言葉を返すと、司教はほっと、小さく安堵の息を吐いたようだった。

「くれぐれも宜しくお願い致します」

 深々と頭を下げる司教を背に、ティアリィ達は国境を抜けた。
 待ってくれていたファルエスタの出迎えの一団と合流する。

「ご無事で何よりです。お聞きしていたよりも人が増えた・・・・・のですね」
「ええ、折よく・・・こちらの商会の方たちとご一緒することが叶いまして」

 にこやかに一歩先に進み出てきたのは宰相だった。だが、彼は途中でぴたりと足を止めた。まるでそこから先へは進めないとでもいうように。手を伸ばしても届かない位置。ちょうどティアリィ自身が自分へと張っている防御魔法の境目ともなる位置だ。防御魔法の効果は、国にかけている守護結界と同じ意味を持つ者だった。
 なるほどとちら、それに目を止め、意図して範囲を少し狭める。其処でようやくもう一歩を進めることが出来た宰相から意識を逸らさないまま周囲を見回すと、一緒に来ていたらしい騎士団長は、検問を抜けるため一度、馬車から降りていたピオラが、再び馬車に残りこむのに、紳士らしく手を貸していた。勿論、手袋越しとは言え直接に触れて。ピオラにも同じ防御魔法をティアリィはかけていた。
 どうやらあちらは問題ないらしい。
 ならば当面気を付けるべきは、ひとまず目の前の彼だけのはず。
 この宰相の名前は何と言ったのだったか。そうだ、確か、コルナルダ。
 結界に抵触しているらしいことには気づいていながらも気付かないふりをして、ティアリィはにこやかに笑いかけた。

「出迎え、助かりました。の国では少々、いろいろとありましたので……この先はずっとご一緒に?」
「ええ、そのつもりです」
「でしたら、後で打ち合わせを」
「この先に村がありますので、宜しければ其処で。ひとまずは先を急ぎましょう」

 予定はそこまで押してはいないけれど、少しばかり遅れているのは事実だった。
 なんとかそんな事務連絡を交わしていて不自然じゃない程度にまで狭めた防御魔法の向こう側でコルナルダ宰相は当たり前の顔をしてティアリィと言葉を交わしている。
 先程の司教よりよほど狸だなというのが、この宰相を目の前にしたティアリィの感想だった。
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