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2・旅程と提案
2-7・とんだ羞恥プレイ
しおりを挟む何を、書けばいいのか。手紙、手紙と言っても。
今までに書き溜めたミスティに宛てたそれを思い出す。
どれもこれも一言二言の短い文面。だが、アーディの指示で、全てに愛の言葉を書き添えた。
思い返すだけで顔から火が出るほど恥ずかしい文面たちだ。
それを、今、また此処で書かねばならないというのか。
ティアリィは赤い顔で固まった。
コルティが膝の上でぐりぐりと、用意した紙に何か書きつけている。その横にはティアリィ用の紙もあり、さあ書けと言わんばかり。ピオラは向かい側の席で笑っていた。
それはそれは楽しそうに。つい、恨みがましく睨みつけてしまうティアリィからの視線などものともせず、ピオラは何処までも楽しそうだった。それどころか、
「さぁ、お母様。お早く」
などと、促してまでくるしまつで。
「うぅ~~~……」
思わずティアリィは縋るよう、膝の上のコルティの小さな背にぐりぐりと自分の頭がこすりつけてしまう。
「母様、書きづらいです」
コルティにもにべもなく指摘されて、ティアリィの体から力が抜けた。
はぁと大きな溜め息一つ。コルティをさっと膝から落とし、一人で座らせて、自分は隣の席に座り直した。
コルティは目の前の紙に夢中だ。
何を書いているのか。文字のような、そうではないような。否、一応文章になってはいるようだがひどく拙く、所々間違っている。
五歳、という年齢から考えると、少し、習練速度が遅いだろうか。だが、教育係からの報告も指摘もない所を考えると、普通の範囲内。おそらく、問題視するほどでもないのだろう。
アーディもミーナも規格外だっただろうということが明確に分かっているだけに、基準がよくわからなかった。
思い返せば幼い頃の妹もこれぐらいだったような気がする。ならばきっと大丈夫。
なお、引き取った年齢が年齢だったため、ピオラとグローディは比較対象にならない。
などとごちゃごちゃと考えていたせいか。
「母様。コルティの手元ばかり見ていないで、どうぞご自身のお手紙にご集中くださいませ」
ティアリィはついにはピオラからの指摘を受けてしまった。
逃げていたのがバレていたようだ。
いや、しかし手紙。手紙なのだ。
ミスティへの、手紙。それも必ず愛の言葉を添えなければならないという難題付きの。それを子供たちの目の前で書かねばならないだなんて。新手の拷問か何かではなかろうかとまで思いながら、赤い顔でティアリィは手紙と向き合うことになるのである。
したためた手紙はこうだった。
『愛するミスティへ
貴方と離れて少し経ちます。
これほど長く離れ離れなことなどなかったので、どうしてもやはり寂しいですね。
お仕事の手は止まってはいませんか?
俺の抜けた穴は、ミスティがしっかりと補填してくれていると信じています。
まだ少し俺は冷静ではいられないままなので、まだまだ全然帰れませんが、想いは募るばかりです。
それらを考慮して、おとなしく待っていてくれると嬉しいです。
きっと、あなたなら俺の信頼を裏切ることがないはず。
愛しています。
貴方のティアリィより』
それ以上の長い文面など到底無理で、同じような内容の手紙を何通か用意する。
確認のためにと目の前でピオラに目を通されてますます居た堪れない思いが強くなった。
本当に、いったいこれは何の羞恥プレイなのか。
「母様は父様のこと、大好きなのですね!」
中身を全て読めたわけでもないだろうに、純真な気持ちでそう告げてくるコルティからの視線が痛い。
これが、子供達や周囲に面倒をかけてまで、ミスティと距離を取ろうとした代償なのかと思うと、初めてティアリィは自分の行動に、ほんの少しの後悔が混じるのを感じざるを得なかった。
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