18 / 206
2・旅程と提案
2-1・手紙について①(ピオラ視点)
しおりを挟む「あの手紙さぁ、アーディに言われて書いたんだけど……本当に効果あると思う?」
ティアリィは馬車の窓枠に頬杖をついて外を眺めながら頬を赤らめ、ぼそりとピオラに向かって口を開いた。
向かい側の席に座っていたピオラは一瞬、目をぱちくりさせて驚き、次いで朗らかに笑う。
「まぁ。そのようなことを気にしていらしたのですか?」
「そりゃ、気になるだろう。今頃は見つけてるんだろうし」
ミスティに宛てて、自らの執務室にそっと置いてきた、短い手紙の話だった。
ピオラも内容は知っている。
アーディの主導でああ書くように言われ、ティアリィがひどく躊躇っていやがっていたことも。それでいて本当は満更でもない気持ちでいたのだろうことも。
愛している、だとか、貴方の、だとか。ティアリィは自分で自分がそういうキャラではないと思っているのだ。嘘偽りない気持ちであるはずなのだが、それを表現することにいつまで経っても慣れる様子がない。
自分の親ながら可愛らしいとピオラは思う。今、ティアリィがしている表情など、まるで恋する少女のような顔だ。照れが勝って素直になれない、思春期の少女。否、心理的な意味でなら、あながち間違ってもいないのかもしれない。
どうもピオラの両親は、まるで少年少女のような恋をこの年になってもまだ育んでいるようなので。もっとも、付随する行為はしっかり年相応で可愛らしさなど欠片もないことも、ピオラはしっかりと察してはいるのだけれど。ピオラももうじき14になる。知識だけならそれなりの教育をすでに受けてきていた。子供の出来方について悩むような清純さの持ち合わせもない。
それでもなおティアリィのこの様子は、可愛らしくピオラの目には映るのだ。
「アーディとグローディに任せておけばよろしいですわよ。あの二人なら予定通り、きっといいようにしているんでしょうから」
ティアリィが気に病むようなことなどきっと何もない。
ピオラとティアリィの乗った馬車は今、何の問題もなくポータルを抜けて、マシェレア共和国に入り、今は代表邸に向けて急いでいる所だった。ポータルは冒険者ギルドの側に設置されていて、代表邸とはほとんど首都の反対側に位置している。とは言え同じ都市内。程なくして着くことだろう。当然、そこまでは馬車だ。馬車ごとポータルで転移したので、簡易的な審査の後はそのまま走り出せば済んだ。
出国したばかりなのだが、外交上の理由で、今日はそちらで歓待を受ける予定となっている。お忍びならともかく、仮にも王族が正式に通過する以上、一言もなく通り過ぎるわけにはいかない。
特に今回の旅程では、行程の半分近くがマシェレア共和国内を進むことになる。事前の挨拶はほとんど絶対に抜かせなかった。
今回の旅では、どうしてもこういうことが多くなる。だからこそ予定は余裕をもって組んでいた。
「いずれにせよ、今から気を揉んでいても仕方がございませんわ。お母様は二人を信じておられればよろしいのです」
年よりも随分と落ち着いた様子でそう告げるピオラに、ティアリィはしんなりと眉尻を下げた。何か言おうとしてやめて、結局違うことを言う。
「ピオラ……今の俺はティールだよ」
「あら。ごめんあそばせ」
思ってもみなかった呼び方の指摘に、ピオラはますます朗らかに笑った。
21
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。


巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる