結婚10年目で今更旦那に惚れたので国出したら何故か他国の王太子に求婚された件。~星の夢2~

愛早さくら

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2・旅程と提案

2-1・手紙について①(ピオラ視点)

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「あの手紙さぁ、アーディに言われて書いたんだけど……本当に効果あると思う?」

 ティアリィは馬車の窓枠に頬杖をついて外を眺めながら頬を赤らめ、ぼそりとピオラに向かって口を開いた。
 向かい側の席に座っていたピオラは一瞬、目をぱちくりさせて驚き、次いで朗らかに笑う。

「まぁ。そのようなことを気にしていらしたのですか?」
「そりゃ、気になるだろう。今頃は見つけてるんだろうし」

 ミスティに宛てて、自らの執務室にそっと置いてきた、短い手紙の話だった。
 ピオラも内容は知っている。
 アーディの主導でああ書くように言われ、ティアリィがひどく躊躇っていやがっていたことも。それでいて本当は満更でもない気持ちでいたのだろうことも。
 愛している、だとか、貴方の、だとか。ティアリィは自分で自分がそういうキャラではないと思っているのだ。嘘偽りない気持ちであるはずなのだが、それを表現することにいつまで経っても慣れる様子がない。
 自分の親ながら可愛らしいとピオラは思う。今、ティアリィがしている表情など、まるで恋する少女のような顔だ。照れが勝って素直になれない、思春期の少女。否、心理的な意味でなら、あながち間違ってもいないのかもしれない。
 どうもピオラの両親は、まるで少年少女のような恋をこの年になってもまだ育んでいるようなので。もっとも、付随する行為はしっかり年相応で可愛らしさなど欠片もないことも、ピオラはしっかりと察してはいるのだけれど。ピオラももうじき14になる。知識だけならそれなりの教育をすでに受けてきていた。子供の出来方について悩むような清純さの持ち合わせもない。
 それでもなおティアリィのこの様子は、可愛らしくピオラの目には映るのだ。

「アーディとグローディに任せておけばよろしいですわよ。あの二人なら予定通り、きっといいようにしているんでしょうから」

 ティアリィが気に病むようなことなどきっと何もない。
 ピオラとティアリィの乗った馬車は今、何の問題もなくポータルを抜けて、マシェレア共和国に入り、今は代表邸に向けて急いでいる所だった。ポータルは冒険者ギルドの側に設置されていて、代表邸とはほとんど首都の反対側に位置している。とは言え同じ都市内。程なくして着くことだろう。当然、そこまでは馬車だ。馬車ごとポータルで転移したので、簡易的な審査の後はそのまま走り出せば済んだ。
 出国したばかりなのだが、外交上の理由で、今日はそちらで歓待を受ける予定となっている。お忍びならともかく、仮にも王族が正式に通過する以上、一言もなく通り過ぎるわけにはいかない。
 特に今回の旅程では、行程の半分近くがマシェレア共和国内を進むことになる。事前の挨拶はほとんど絶対に抜かせなかった。
 今回の旅では、どうしてもこういうことが多くなる。だからこそ予定は余裕をもって組んでいた。

「いずれにせよ、今から気を揉んでいても仕方がございませんわ。お母様は二人を信じておられればよろしいのです」

 年よりも随分と落ち着いた様子でそう告げるピオラに、ティアリィはしんなりと眉尻を下げた。何か言おうとしてやめて、結局違うことを言う。

「ピオラ……今の俺はティール・・・・だよ」
「あら。ごめんあそばせ」

 思ってもみなかった呼び方の指摘に、ピオラはますます朗らかに笑った。
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