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1・きっかけと要因

1-14・出立の時

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 さて、護衛として付いていくのだから、当然そのままの立場でというわけにはいかない。
 何処の世界に他国への留学に母親が共にいくことがあるというのか。否、探せばそういうこともあるのかもしれないが、少なくともティアリィの立ち位置はそれを許すようなものではなかった。
 にもかかわらず付いていく。それが無理をおしてのことであるのは確かで、ではどうやって違う立場となるのか。
 単純な話、変装すればいいのである。

「あらぁ。見違えましたわ。でも騎士服もお似合いになられますわね」

 変装姿を初めて見たピオラの反応がこれだった。
 もっとも、変装と言っても髪と目の色を変え、魔力を抑えただけ。あとはいつも自身にかけている防御魔法に認識阻害を含ませた。
 こういった状態変化は、多くの者にとってなにがしかの媒体を必要とするものなのだが、ティアリィには必要なく、ほぼ無制限に変化の維持も出来た。
 ティアリィはコツがあるのだと他者に伝えたことがある。しかし、他に理解できた者はいなかった。
 ここで重要なのは認識阻害だ。何分、顔の造作そのものを変えたわけではなく、髪と目の色の変化、魔力を抑えたことによる影響は印象が変わる程度のもの。認識を阻害することによってはじめて他の者だと思うことが出来た。
 とは言え、其処に認識阻害が含まれているとあらかじめ知っている者には見破れてしまう程度ではあるのだが。出立の折、ミスティの目を誤魔化すのには充分だろうとティアリィは考えている。
 どうせミスティは随員の確認もしてやしないのだ。すべてティアリィに任せてしまっていて。否、ティアリィがあえて請け負って、報告しないでおいただけなのだが。
 もし、事前に確認をしていれば。気付いたこともあったはずだった。なにせ随員の資料の中には護衛として、ティール・ジルサといういもしない公爵家の三男・・の名前がはっきりと記載されていたのだから。
 ジルサ公爵家と言えばティアリィの生家だ。ミスティだって、ティアリィの兄妹のことは知っている。ティールなどという名前の三男が存在しないことも。
 案の定、見送りに出てきた者の中で事情を知らないのはミスティのみ。わかっている者の中には何とも言えない微妙な視線を寄越す者もいた。
 見送りの代表はにこやかな顔をしたアーディにグローディ、そしてミスティ。ミーナは微妙な顔で一歩下がった所からちらちらとティアリィの方を見ていて、誤魔化せないだろうと判断されたコルティは同席させなかった。出発を寂しがりぐずっていて、とても出て来られる状況ではなく、ティアリィはそれに付き添っているとミスティは把握している。
 誰かがそう明言したわけではないのだが、示唆するような発言は少しだけあった。
 ちなみにぐずっているのは本当で、ただ、傍にいるのはティアリィではなく、コルティ付きの女官だ。
 何せティアリィはこの場にいるのだから。

「ああ、ピオラ。充分に気を付けて。細目こまめに連絡をするように」

 ミスティが心配げに言い募る。ピオラはおっとりと笑い返した。

「心配ございませんわ。もついておりますし」

 そういって、控える護衛達4人・・に視線を送る。ミスティも彼らを認めて頷いた。その中にはティール・・・・がいたのだが、気付かないままに。

「くれぐれも頼んだよ」
「お任せください」

 代表として応えたのは一番年長であるハヌソファだ。本来の代表はティールなのだが、流石に声までは変えていない上、認識阻害でどこまで誤魔化せるか判断できなかった為、この場でのみハヌソファが前に出た。

「ああ、ティアリィがこの場にいないのは残念だね。あんなに心配していたのに」

 眉根を下げるミスティに、ピオラはころころと笑った。

「大丈夫ですわよ。お話は充分に致しましたし」

 それはもう念入りに話はしている。そもそも共に出立するのだ。残念も何もない。
 アーディとグローディは訳知り顔でにこやかに微笑むのみ。
 別に彼ら二人にミスティに対して思う所などないのだが、この状況が少しばかり楽しいとは思っているのだろう。そういう所ばかりミスティによく似ていた。
 王宮の文官や侍従たちが幾人か、護衛に対するにはいささか過ぎるほど丁寧に、ティールに声をかけていく。だがそれらは、ミスティに違和感を覚えさせるほどのものではなかった。
 そうして、ついに出立の時間となり、ポータルに向かう一行をミスティは何も知らず見送ったのである。
 気付いたのはそのすぐ後。ミスティは無事、ピオラが出立したことをティアリィに報告しようとして、そして……――。

「ティ、ティアリィ?!」

 初めて聞くようなミスティの叫び声が、王宮中に響き渡った。
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