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1・きっかけと要因

1-12・旅程を考える

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 ピオラをファルエスタに送り出すに当たって、どのようなルートで向かうかは当然ながら重要な課題となった。
 初め予定されていたのは国境付近までポータルで転移して、その後大きな街道に沿ってデアミノイス王国とルティル王国、キゾワリ聖国を経由するルートだ。
 だが、そうなると最初のデアミノイスで魔の森を少しばかり横切る場所があり、かといって魔の森を完全に避けようと思うと経由する国が多くなる。
 魔の森はその名の通り、魔物や魔獣が生息する森を指す。大陸中に点在していて、移動する時は可能な限り避けるのが定石だ。
 しかし、外交上の理由と移動時間を考えても、経由する国は出来るだけ少ない方が良かった。
 ファルエスタは四方を山に囲まれていて、その上、隣接するどの国にもポータルが設置されていなかった。
 近いポータルは3か所。ルティル王国の南に位置する二国と我がナウラティスとキゾワリ聖国等との間に広がるマシェレア共和国だ。
 街道を考えると、マフェレア共和国の首都までポータルで飛んで、そこから街道に沿ってキゾワリ聖国を経由するルートが良いのではないかと思われた。
 それでも、外交等も含めだいたい一月ひとつきの行程となる。
 今回行った際に、ファルエスタにポータルを設置してしまう予定になっているので、行ってさえしまえば今後の行き来は容易になると予想された。
 なお、それとは別にティアリィは単独での転移を得意としているので、一度行った場所、あるいは座標が明確である所なら、瞬きの間に移動できた。難点と言えるのはあくまで転移はティアリィ本人のみの話である部分と必要になる魔力量が大量であること。人一人ぐらいなら一緒に転移することも出来るが、逆に言うとそれが限界だった。
 国で随一の魔力量を誇るティアリィでさえ、それである。他の者が容易に出来ることではないのは当たり前と言えば当たり前の話だった。
 勿論、ピオラにも同行する騎士たちにも出来ず、敢えて言うならミスティとアーディなら可能だ。ミーナも短距離なら出来るらしい。
 ピオラに同行するつもりのティアリィのみが毎日帰ってくる予定であるというのは、そういう事情があった。どこかでコルティを連れ出さなければと思ったのも同じ。
 うんうんと地図を前に迷うティアリィを見て、同席していたピオラはまるで人ごとのような顔でおっとりと口を開く。

「お母様、それほどお悩みになられなくとも。わたくしならある程度は平気ですわぁ」

 ピオラが得意なのは防御魔法だ。少しぐらいなら魔の森に入っても問題とはならないだろう。
 ティアリィもそれはわかっている。だが。

「そういう問題じゃないよ、ピオラ。実際に動くとなれば、経由する先方の都合もあるのだから」

 ピオラは王族だ。養子とは言え、ナウラティス皇帝の第一皇女。まさか素通りするわけにもいかない。
 事前の通達は当然必要であったし、護衛の予定もしっかりと組まなければならない。
 何より長い旅程が出来るだけ平穏であってほしいと思うのは単純に子供を思う親心である。

「でも、お父様にもお伝えしない・・・・・・のでしょう?」

 ティアリィは頷いた。

「だからこそだよ」

 詳細な旅程をミスティに報告する予定がなかった。ティアリィのみの裁量で方々に許可が出せるような案件であったからだ。むしろティアリィの請け負っている仕事の管轄内であると言える。
 だからこそ、一部の隙もあってはならない。
 いくら自分が付いていって直接守れると言っても、自分はちょこちょこ帰国する予定であるし、全行程をずっと付きっ切りというわけにもいかず、出来るだけ安全に旅に臨んでほしかった。

「うん。やっぱりマシェレアまで飛ぶことにしよう」

 ポータルでマシェレアに飛んで、其処からキゾワリを経由するルートに決める。どうしても山を越えなければならないのだが、其処も遠回りしてでもできるだけ楽な道を選択することにする。やはりかかるだろう行程はどう少なく見積もっても一月ひとつき。余裕を見て、もう少し大目に見ておいた方がいいだろうか。ピオラもティアリィ自身も初めての長旅だ。
 護衛には旅慣れたものも含めておこうと思った。
 気の済むようになさって下さったらよろしいですわ、と最終的に否を言わなくなったピオラの、何処か呆れたような眼差しには気づかなかったこととして。ティアリィは旅程を詰めていったのだった。
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