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1・きっかけと要因
1-9・ティアリィの懸念と、
しおりを挟むティアリィは悩んでいた。
ピオラの留学。それ自体は別に悪いことではない。ただ、問題は場所だった。いくらいずれピオラ本人が嫁ぐ予定の国だと言っても、彼の国で安心できるはずがない。しかもピオラはまだ13。子供だ。
しかしもちろんピオラ本人は行くつもりでいる。ポータルも設置されていないような国に、一人で。
勿論、充分に護衛は付けるつもりではあるが。そんなことぐらいで安心できるはずがない。
「まだ悩んでいるんですか、母様」
仕事量の関係もあり、今はミスティと別にしている自分用の執務室で、仕事の手は休ませないままでありながらうんうん悩んでいたティアリィに声をかけたのは、つい先ほど入室してきたばかりのアーディだった。
もうじき10歳になるアーディは、姉弟の中でも一番しっかりしていて、今もいくつかの執務を手伝ってさえくれていた。
能力も含めた優秀さは、次期帝位に相応しい。
しかしその分、両親への対応が一番乱暴なのも本当だった。ピオラやグローディに見られる微かな遠慮が見えないのは実子ゆえの余裕だろうか。否、多分生まれつきの性質によるものだろう。あるいは違えようもなく両親に似たのか。ミーナにもそんな所がある。コルティは小さすぎてまだわからない。あの子は末っ子ゆえか、年よりも少し幼いから。
アーディの言葉は、ティアリィが悩んでいる内容を違えず理解しているもので、ティアリィもまた、アーディにならわかるだろうと認識していた。だから返事の代わりに肩を竦める。
「そりゃ悩むだろう。そんなに簡単に答えは出ないよ」
何せ場所は国外だ。ピオラの安全に直結する。
「着いていかせる護衛の選出でしょう? それほど悩まなくても我が国の騎士は皆、優秀ですよ。何より姉上は結界術がお得意じゃないですか。物理的に姉上を傷つけられる者などいるとも思えませんけど」
確かにピオラが得意なのは結界魔術で、こと、防御という意味においては兄弟の中で頭一つ抜きんでている。
ピオラはその血の薄さに比例して魔力量はそれほど多くない。それは確かに平民よりは多いが、むしろ貴族としてさえ少ないぐらいだ。王宮の中にあってはどうしても見劣りした。そう言った部分はやはりグローディも同じ。コルティは、生まれて間もない頃からティアリィ達が育てている影響もあって、その二人よりは多い。
だが、ピオラは魔術の使い方が非常に巧みだ。少ない魔力量を補って余りあるほど魔法、魔術の腕は確かで、魔力量が多いだけのアーディなどは悔しく思うこともあるほどなのだとか。姉弟仲が悪いわけでは決してないのだけれど、そういう問題ではないらしい。
グローディは魔法魔術よりも武に優れている。少し脳筋よりな所があるぐらいだった。ミーナは恐らく今日も城下だ。あの子はどうも庶民や平民に興味津々で、意識が惹かれて止まないようだから。既定の勉強をしっかり終わらせていて、怪我なく戻ってくるようならとティアリィは敢えてあまりうるさく言わないように心がけていた。
そもそも王都の治安はよく、それこそスラムにでも入り込まない限り、危険など早々ありはしないのだ。
だが、これからピオラが行こうとしている国ではそうもいかないだろう。
国と国としての物理的な距離もあり、治安の情報までは正確に掴めていない。
皮肉なことに、彼の事件がいい方向で作用したらしく、それまでよりもむしろ治安はよくなったと聞いてはいる。それでも、心配なことに変わりはなかった。
ピオラは好奇心旺盛な性質でもなく、今年から学園に通い出してはいるが、王宮で引き取られて以来、今に至るまでほとんど外出もせず育ってきたのだ。故にか少し世間知らずな所もある。
心配の種は尽きなかった。
「そうは言っても」
しかめた顔を戻さずなおも悩むティアリィにアーディは溜め息を吐く。
次いでほとんどやけくそのようにこう言い捨てた。
「そんなに心配なのなら、もういっそ母様が着いて行かれてはいかがです? どうせ母様なら転移ですぐにでも戻って来られるのでしょうし」
ティアリィはまるで天啓を受けたかのように目を見開いた。
それは今まで思ってもいなかったもの。だが。
「それだ!!」
確かに名案だと思えたからだった。
「え」
戸惑ったアーディの引きつった顔になど気付かず、ティアリィは本気で検討し始めた。
すなわち、自分が護衛としてピオラに着いていく方法を。
それはティアリィにとって決して無茶とは思えない提案だった。だが同時に他の者にもたらす影響が、ティアリィの頭から抜けているのも確かだった。
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