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1・きっかけと要因
1-1・ティアリィの心情と現状
しおりを挟む「ティアリィ」
ミスティが囁く。俺の名前。柔らかく、甘く。これでもかとばかりに愛しさを込めて。
俺を大事に抱きしめて。
「あ」
あ。心臓がドキドキした。ありえないぐらい、胸が激しく鼓動を打ち、頬にかぁと血が上る。きっと真っ赤だ。いたたまれない。
あまりの照れくささに耐えきれなくなった俺は……――。
「すみません!!無理です!!!」
そう叫んで、彼の緩く甘い拘束を解いて逃げ出した。
ミスティ、ミスチアーテ・カデラリア・ナウラティス。ここ、ナウラティス帝国の皇帝にして……――俺自身の、旦那である、彼から。
それは、ここ数年、お決まりとなっているやり取りだった。
俺はティアレルリイ・ジルサ・ナウラティス。皇帝を旦那と言ったのでもわかる通り、この国の皇后だ。
今はあんな風になってしまっているが、別に新婚という訳では無い。子供だって、実子と養子と併せて5人もいる結婚して10年の熟年夫婦……と言える、はず、だ。
あくまでも、はず。
俺とミスティは同じ歳の幼なじみで、18で学園を卒業して直ぐに、ミスティから是非にと請われ、俺の方にも否やはなかったので、すぐに子供もでき、翌年には婚姻式を上げた。
ミスティは幼い頃から、俺に惚れてくれていたらしい。残念ながら俺の方にはその時点で恋愛感情などなく、ミスティの迫り方が少々強引なのもあってほんの少しばかり問題が起きたりもしたのだが、俺自身納得して王家に嫁いだ。
だが、本当にその時点では、ミスティに恋心など抱いてはいなかったのだ。そこまでには至らない好意自体は存在したのだけれど。
それが変わったのは今から6年前。2人目の子供が生まれて2年経って、そろそろ次を、と、ミスティが求めた時。
否、その更に数ヶ月前に、珍しくミスティが数ヶ月に渡って国を開けることがあった。外交上の理由だ。
俺とミスティは幼なじみで、実は初めて会った5歳の時から、そんなに長く別々に過ごしたことがなくて。
たった数ヶ月。されど数ヶ月。会えない時間を過ごして、会えない間は自体は、多少の寂しさ以外に別になんともなかったはずなのに、数ヶ月ぶりにミスティに再会した時に。……――俺は自覚してしまったのだ。
すなわち、俺は実はとっくにミスティに、惚れてしまっていたという、その事実を。
いたたまれなかった。
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかった。
だってミスティはずっと俺に惚れてくれていた。あんな、熱烈に俺を求めて。その上子供まで。
あんな、あんな。
久しぶりに会ったミスティはかっこよくて。そんなの、ずっと前から分かっていたはずなのに、俺は全然わかっていなかったんだということを、その時初めて自覚して、これまでのミスティとの色々を思い出すと顔が火照って仕方なかったいたたまれなくて、耐えきれなくて、それで。
今に至るまで、逃げ続けている。
否、寝室は、共にしているのだ。いくら日中逃げ回っても、夜になると捕まって、これでもかと言うほど執拗に愛を注ぎ込まれる。そうするとますます居た堪れない。
一向に慣れることが出来ず、6年。
俺は未だにミスティに、まともに対応出来ないままでいる。
ああ、本当に。情けなくて仕方ない話なのだけど。
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