上 下
17 / 26

16・胸騒ぎ

しおりを挟む

 学生生活は当然ながら卒業とともに終わる。
 高等部は三年間で、キューミオ殿下の留学期間もそれに伴って三年。
 卒業後はそれぞれ、王宮で執務に当たることとなるだろう。
 今までよりも多くなるけれど、授業がなくなる分、休日はしっかり設定されるようになるとも聞いていた。
 今はどうしても週に一日だって、しっかり休めるような日はないから。
 その後、約半年後に、私とルーミス殿下との婚姻が予定されていた。
 もちろん、どれだけキューミオ殿下に詰られたとてそのようなことは一切関係がなく、変更があるとも聞いていない。
 ああ、そう言えば。

「キューミオ殿下は……執務だとか、そう言うのはなかったのかしらね……」

 当たり前の話だが、私とルーミス殿下とは違って、王宮で執務や教育を受けたりだとかそのようなことがなかったのは把握していた。
 おそらくは正しく学生としての生活を謳歌していたことだろう。
 流石に長期休みは帰国していたようだけど。私への態度以外に大きな問題が起きるようなこともなかったように思う。否。

「あの女生徒と仲良くしていたようなのは、問題と言えば問題かしら……」

 いずれも私には関係のない話だ。
 私たち全員の卒業式の後は王宮で夜会の予定があった。
 日程としては翌々日。
 私とルーミス殿下の卒業祝いと、キューミオ殿下の送別の意味もある、ある意味での卒業記念パーティのようなものだ。
 例年なら学園のホールで行われているはずの物で、今年に限っては私や殿下方がいるので開催場所は王宮となるのだが、卒業生は全員招待されていた。
 ルーミス殿下からはいつも通り、当日着用するようにと、ドレスが送られてきていて、流石、これまで婚約者としての責務を正しく勤めてきてくれたルーミス殿下らしいと何となく心が温かくなった。

「ルーミス殿下は、変わらなかったわね」

 私への態度に変わる所などなく、会話もなければ笑いかけられもしない。
 きっと好かれてはいないのだろう、だけど。

「嫌われてもいなかった、はず……」

『不快だ』

 いつぞや耳にした言葉が脳裏に蘇る。
 キューミオ殿下から詰られるとほとんど決まって、同じようなことを言っていた。
 ただ、それが私に対してなのかどうかははっきり、明言されたことはない。

「私のことじゃ、なければいい」

 それはいっそ願いかもしれない。
 少なくともこうして、ドレスが送られているということは、今後も、婚約者として扱ってくれるつもりがあるという証。
 当日は迎えにも来て下さる予定となっていて、両親や、王宮に赴いた際に顔を合わせる教育係や官吏などの誰からも、何か、おかしなことが起きているというようなことを言われることは一度もなかった。
 つまり、ルーミス殿下の態度などに変化は何もないということ。
 それでも、嫌われていないだとか、不快だと言ったのは私のことじゃないだとか。それが自分の願望でしかないことは、私自身にもよくわかっていた。
 そんな風にして迎えた卒業式は何事もなく、ただ平穏に過ぎていく。
 私はこれから行われる夜会も、同じよう、何事もなければいい。そんなことだけを願っていた。
 なんとなく、そうはならないかもしれない、そんな胸騒ぎを拭いきれないままに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

不貞の罪でっち上げで次期王妃の座を奪われましたが、自らの手を下さずとも奪い返してみせますわ。そしてあっさり捨てて差し上げましょう

松ノ木るな
恋愛
 カンテミール侯爵家の娘ノエルは理知的で高潔な令嬢と広く認められた次期王妃。その隠れたもうひとつの顔は、ご令嬢方のあいだで大人気の、恋愛小説の作者であった。  ある時彼女を陥れようと画策した令嬢に、物語の原稿を盗まれた上、不貞の日記だとでっち上げの告発をされ、王太子に婚約破棄されてしまう。  そこに彼女の無実を信じると言い切った、麗しき黒衣裳の騎士が現れる。そして彼は言う。 「私があなたをこの窮地から救いあげる。これであなたへの愛の証としよう」  令嬢ノエルが最後に選んだものは…… 地位? それとも愛?

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

婚約破棄させようと王子の婚約者を罠に嵌めるのに失敗した男爵令嬢のその後

春野こもも
恋愛
王子に婚約破棄をしてもらおうと、婚約者の侯爵令嬢を罠に嵌めようとして失敗し、実家から勘当されたうえに追放された、とある男爵令嬢のその後のお話です。 『婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~』(全2話)の男爵令嬢のその後のお話……かもしれません。ですがこの短編のみでお読みいただいてもまったく問題ありません。 コメディ色が強いので、上記短編の世界観を壊したくない方はご覧にならないほうが賢明です(>_<) なろうラジオ大賞用に1000文字以内のルールで執筆したものです。 ふわりとお読みください。

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

悪役令嬢は、いつでも婚約破棄を受け付けている。

ao_narou
恋愛
 自身の愛する婚約者――ソレイル・ディ・ア・ユースリアと平民の美少女ナナリーの密会を知ってしまった悪役令嬢――エリザベス・ディ・カディアスは、自身の思いに蓋をしてソレイルのため「わたくしはいつでも、あなたからの婚約破棄をお受けいたしますわ」と言葉にする。  その度に困惑を隠せないソレイルはエリザベスの真意に気付くのか……また、ナナリーとの浮気の真相は……。  ちょっとだけ変わった悪役令嬢の恋物語です。

処理中です...