3 / 26
2・規範として
しおりを挟むそれでも私はその後、少ししたら最初の予定通り図書室に向かい、必要だった資料の確認などを済ませ、早めに教室へと戻って次の授業に備え予習した。
私は日頃から常に、
『他の生徒たちのお手本になるように』
と言われている。
淑女の規範であらねばならず、隙を見せてはいけないと。
それがいずれ王妃となる私に課せられた義務なのだそうだ。
私はこれまで、それに諾々と従ってきた。
ただ、幼い頃からお慕いしている、ルーミス殿下に相応しくあるために。
その為だけに、今の私を作り上げてきたのである。
(自由な時間などまるでないほどに詰め込まれた勉強も、それだけではなく、更にその先をも求められる状況にも。必死でくらいついてきた、つもりだったのだけれども……)
おかげで今の私を見て、何かが欠けているだとかいうようなことを口にする者などほとんどいない。
それこそ、キューミオ殿下が言っていたように、だからこそよくないというようなものは出てきているみたいだけれども。
教師たち皆にお墨付きをもらった、淑女教育、王族教育、王子妃教育、そして王妃教育などは、そういうことを言う者たちにとっては、まるで意味のない者であるらしい。むしろ、
『お高く留まって……見て、あの笑顔。いつも微笑んで表情一つ変えないのよ? 気持ち悪い』
などと言うことになるようだったし、あるいは、
『殿下方より成績がいいのか? 何様のつもりなんだ。出しゃばり過ぎだろ。相手を立てるだとかいう気遣い一つできないだなんて』
と、鼻白まれたりまでした。
常に微笑みを崩さないのは、そう教えられたからだし、成績にしても、初めの方に一度、ルーミス殿下に僅かばかり及ばないことがあったのだが、その際、他でもないルーミス殿下ご本人に、
『力を抜くな。私を軽んじているのか?』
と、お叱りを受け、むしろより良い成績を保つように申し付けられたのである。
だからこそ私は逆に、殿下方より成績が下回るわけにはいかないと認識していたのだけれども。
(そんなことをあの方たちが知る由もないものね……)
ルーミス殿下ご自身もきっと、そのようなことを言うものが現れるだなんて、考えてはおられなかったことだろう。
あるいは、それを見越して敢えて、私を悪く見せる為、そのようなことを申し付けられたのか。
(なんて……それは流石に穿ちすぎだわ……)
キューミオ殿下はともかく、ルーミス殿下がそこまで底意地の悪いことをお考えになるとは思えなかった。
むしろそのようなお手間さえ、おかけにならないのではないかと逆に思う。
だからあれも、
(自分の妃になるのなら、自分より優秀である方がいいだとか、そういうことをお思いになられたに過ぎないはず)
そう大きな意味などなかったのだろうと自分を慰めた。
それまでよりより一層、勉学にも励むようになった私自身は間違っていなかったのだと。
などと、そんなこと風に考えを巡らしながら、いつも通りの微笑みで机に向かう私は、きっと周囲から見ると『隙のない令嬢』であり続けられていたことだろう。
心の内など、欠片とて漏らさずにいること。
それはいずれ王妃になる立場として、当然のことだと習ってきている。
そんな私の態度を周囲がどう受け止めるのかはまた、別の話であるのだろうけれども。
その内に予定通り、午後の授業が始まった。
15
あなたにおすすめの小説
戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました
Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。
「彼から恋文をもらっていますの」。
二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに?
真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。
そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。
※小説家になろう様にも投稿しています
悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました
ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。
壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる