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17・救いを求める
しおりを挟むルピオダイルは、他者の言葉に逆らわない。なんでも促されたとおりに行動する。
その上、何かを選ばなければならない時には、より悪い方を選ぶくせがあった。
少しでも自分が不快と思うことがこそ、祝福だと思っているからだった。
なので何も選ばせずに促しさえしていれば、ルピオダイルを伴っての旅はそれほど難しいものではなかった。むしろ育ち始めた子供を連れていくことの方が大変だったぐらいだ。
だけど置いてはいけず、子供も連れての旅となった。
言葉そのものがわからない訳では無いようなのにも関わらず、人の話をほとんど理解しなくなってしまっているルピオダイルに、わかりやすい指示を細かくだし、子供の世話も手伝わせ、できるだけ広く安全な街道を行く。
幸い、理由を告げて申し出れば、国は旅の資金を援助してくれ、また、魔力だけは多いルピオダイルが共に来たおかげで国家間の転移に使用されるポータルも利用することが出来、結界に阻まれることなくナウラティス帝国に入国することが出来た。
だからと言ってそれだけで、本来王宮になど来られるわけは無いし、ましてや皇帝や皇后になど会えるはずがなかった。
男はただ、願い出ただけだ。ルピオダイルを救いたいのだと。そのための術を探しに来たのだと。
そんな男と、伴われたルピオダイルのことを知って、彼らに会うと言ってきたのは、皇后たる青年の方だった。
キゾワリの変化に無関係ではなかったせいだろうか。
それとも、故国でかつて王子でありながら妃でもあったルピオダイルの立場から、なにか察するものがあったのか。
皇帝だという、青年の伴侶の方は、不本意そうな顔を隠しもしなかったけれど、青年自身は大変に親切で、しかし、男がルピオダイルの現状を伝えていくにつれて厳しい顔となっていって。
男へとそれで良いのかと確認してきた。
男は頷いた。
もう、そうするより他に術はないとしか思えなかった。
産まれてからこれまで培われてきた価値観は早々変わらない。
特にルピオダイルの場合は正常な判断どころか、思考さえままならなくなっていて、人並みの生活すら送れなくなっている。
にも関わらず、祝福を求めてやまないのだ。
時間をかければ、あるいは。だが、それにはどれほどの時間がかかることだろう。
それまでに彼はどれだけ自分から進んで傷ついていくのだろう。
もし、彼が全ての呪縛から解き放たれた時、彼はこれまでの自分に耐えられるのだろうか。
自分の望んだ祝福が自分を苦しめるだけのものだったのだと知ったら、その時に彼はどう。
わからなかった。悪いことしか考えられなかった。
ルピオダイルは魔力が多い。魔力が多いものの死因のほとんどは自殺だ。
ルピオダイルにこれまでの人生が辛いものでしか無かったのだと自覚させられない。そうなった時に彼が耐えられるとはとても思えず、かと言ってそれがわからないままだと彼は祝福を求め続けるのである。
男はいっそと考えた。
辛い記憶など全てなくなれば。
ナウラティスには、それを可能とする者がいることを知っていた。
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