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6・周囲のご令嬢たち
しおりを挟む学園では、おしゃべりなご令嬢たちが私を取り囲んで色々なことを言う。
何の話をしているのかさえ分からないことが多かったのだが、私は彼女たちが近くにいると気持ち悪くて堪らず、つまり彼女たちも私に祝福を与えてくれているのだと理解して、喜んでそれらを受け入れていた。
そんな中でご令嬢の一人が、私の婚約者について口に出した。
「確か、ルピル殿下のご婚約者はコラジエル伯爵令嬢でらっしゃいましたわよね?」
「あら、あの辺境の?」
「どうして殿下の婚約者になどなれたのかしら」
不思議そうな彼女たちに、私は偽ることなく私の知っている事実を伝えるべく口を開く。
彼女たちの会話の多くを理解できないとはいえ、まったく会話をしないわけではなく、何かを聞かれたり、私でもわかるようなことなら、私は言葉を飲むようなことなどしなかった。
「父上が美しいと」
ミオシディアが私の婚約者に選ばれた理由はそれだけのはずだ。
私の言葉を聞いたご令嬢の一人が、ぱちりと小さく目を瞬いた。次いでにしゃと、気持ちの悪い、祝福に満ちた笑みを浮かべる。
「あら? 殿下の方がお美しくていらっしゃいますのに」
私を見る彼女の目は侮蔑と嘲笑に塗れて、私の見た目のみを湛えているようだった。
「そうですわね。ですから聖王陛下からのご寵愛も深くていらっしゃるとか」
他のご令嬢も賛同して、うふふ、おほほと笑いあう。
ぐわんぐわんと地面が揺れるようだった。
彼女たちは本当に素晴らしい。王宮で父上や騎士様や司祭様とはまた違った祝福を、これでもかと私に与え続けてくれるのだから。
吐き気がした。
だから私はそれを何度も唾を飲むことで耐えて笑う。
「ああ、私は父上に特別に目をかけて頂いているのだ」
城の女中たちも皆そう言っていた。彼女たちも頷いて花のように笑う。
「そうですわねぇ」
「間違いございませんわ」
「ルピル殿下はお美しくていらっしゃいますもの」
うふふ、おほほ。
ご令嬢たちの様子は、いつもそのような感じだった。
祝福に満ちたご令嬢たち。
彼女たちが近くにいる時には、決まってミオシディアは近づいては来ず、流石は私に祝福を与えてくれないミオシディアだと私はどこかでほっとしていた。
そのうちに私は、嫌悪を持って彼女を遠ざけるようになる。
彼女は私に近づいてはいけなかった。
彼女は私に祝福を与えず、私も彼女に祝福を与えないのだから、私と彼女は離れているべきなのだ。
口に出す理由は一つだけ。
「父上がミオシディアを気に入っているのだ。私の方が美しいのに」
だって皆そう言っている。
私が彼女を遠ざける理由はそうではないような気もしたけれど、周りのもの皆がそう言っていたし、私は他の言葉を知らなかった。
「私は父上に特別に気にかけて頂いているのだ」
私は誇らしさも露わにそれを口にする。
私がそういうと、皆が笑った。
それの何と悍ましく気持ちの悪いことだろう!
父上の私へと与えて下さる最大の祝福は、あるいは私のこの、父上への感情なのかもしれなかった。
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