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5・婚約者
しおりを挟む日々祝福を受け取っている時間以外に、私が許されていることは、それほど多くはなかった。
そも、父上が私へと直接祝福を注いでくださっている以上、可能な限り、自分を磨くよう言いつけられていて、私のすることの多くは女中に止められた。
勉強なども必要最低限以上は要らず、男だというのに、剣術や体術なども、むしろ近づいてはならないと言われていて、私がそれらに初めて触れたのは、学園に入ってからのことだった。
学園は何もかもが新鮮で素晴らしかった。
だが、残念ながら祝福からは少し遠い。
同じような歳の者が何人も集まって、1人の教師から授業を受ける。
授業内容の多くは、私にはさっぱりわからない。
さすがに文字は読めるので、読んで理解しようとは思うのだが、そもそも、なぜ理解できないのか、何が理解できないのかさえも自分では全くわからずに。
時折、私の婚約者であるコラジエル伯爵家のご令嬢たるミオシディアが親切にも色々と教えてくれようとしたのだが、私はそもそもミオシディアと触れ合うことを良いとは思っておらず、むしろ関わって欲しくないとまで思った。
彼女は私に祝福を与えてくれたことが、これまで1度としてなかったからである。
侍女や女中、普段私と一切関わろうとしない母でさえも、たとえどれほど少なくとも、私に祝福を与えてくださったことがある。
そもそも私は誰であれ、誰かに触られることそのものが、気持ち悪くて堪らないのだ。
いつからかは分からないけれど、気付くとそうなっていた。
私は誰かに触れて貰えるだけで、祝福を受け取れるようになっていたのである。
にも関わらず、彼女の手はどんな嫌悪も私にもたらさず、ただ真白く美しいばかりで、その美しさは私の憧れだった。
私は多分、そんな風に美しい彼女から絶対に祝福を受けたくない、そんなふうに強く願っていたのだと思う。
ミオシディアとの婚約を決めたのは父上であり、父上は彼女の美しさを大変褒めていらっしゃった。
気持ち悪さに頭の芯が煮え立つ。背筋がぞわざわして、吐き気がした。
なんという祝福だろうか。
父上はやはり素晴らしい。私に婚約者を与えることで、新しい祝福をもたらしてくださったのである。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、はっ、ぁあっ!」
「ルピルよ。お前も美しい婚約者を持てて幸せだろう。婚姻が楽しみだな?」
父上は私の腹の中をかき回しながらそんなことをおっしゃって、私は悍ましさにせり上がってくる何かを堪え、何度も何度も唾を飲みこみながら、かろうじて何とか頷きを返した。
「ぁ!は、はいぃ……っ! ぁっ! たのしみ、で、すぅっ……! あ!」
婚姻。ミオシディアと婚姻。そうするとどうなるのだろうか。
私が父上からお与えいただいているのは祝福である。
これらがなくなるとは思えない。なら、ミオシディアも新しく、私と共に父上に祝福を頂くのか。
いやだった。
堪えられそうもなかった。
美しいミオシディア。私に祝福を与えてはくれないミオシディア。
『殿下』
私の名前を呼ばないミオシディア。
名前なんて呼ばれたくなかった。
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