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2・祝福とは
しおりを挟む父上に触れられるのは幼い頃から日常茶飯事だった。
とは言え、父上はいつもお忙しく、私に触れて下さるのは時折、母の元を訪れる時についでのようにと言うのが多く、それ以外はごく稀だった。
「ルピル。本当にお前は美しい」
母に祝福を注いだあと、母の寝室へと私を呼んで、母が他の騎士様や司祭様に祝福を与えられている横で、そう言いながら父上は私に触れた。
頬を撫で、頭を撫で、髪を梳き、唇を親指でくいと押す。
父上の指が口の中に入ってきて、私はその感触をひどく気持ち悪いと感じていた。
だが。
「どうしたのだ、ルピル。これは私からの祝福だよ。喜んで受け入れなさい」
父上は微笑みながらそう仰った。
口の中を這い回り、歯をなぞったり、舌を掻き回したりする父上の指の感触は、まるで虫かなにかのようで、なんだかとっても気持ちが悪かった。
なぜ父上は私の口の中に触れるのだろうか。
わからなかった。
触れて欲しくなかった。
でも。
「ふぁい、ひひふえ」
全ては聖王様のお導きのままに。
父上が望むままに。
父上のなさることには全て従わなければならない。父上のなさることの全ては私にとっての祝福なのだから。
全ては聖王様のお導きのままに。
物心つく前から幾度も幾度も言い聞かされた言葉が、頭の中に渦巻いていた。
多分、はじめのはじめ、父上にはじめてそうやって触れられた時に、嫌だと言ったことがあるとは思う。
私はもうよく覚えていないけれど、
「そうか、いやなのか。だが、そうすると私はお前に祝福を与えられなくなってしまうよ?」
と、恐ろしいほどの笑顔でおっしゃる父上と、
「ルピル様。聖王様から与えられる全ては祝福なのです。それを嫌だなんて仰ってはなりません。母君のように、祝福を苦痛と感じてしまうようになりますよ」
と、困ったように、しかしキッパリと私に言い聞かせる女中の顔が記憶にある。
だから多分、私は父上に触れられることを嫌だと言ったことがあるのだと思う。
だが、私はすぐに嫌だなどと言わなくなって言ったことだろう。
なぜなら母の呻き声と悲鳴がいつも隣にあったからだ。
母が苦しむのは、母が祝福を拒んでいるからだと女中は言っていた。
母が信心深くないせいで祝福が苦痛を伴うのだと。
喜びを持って受け入れなければならないものなのに。
「ぁ、ぁあ……いゃぁ……ぃやあ……あっ! ぁうっ、ひぃ! ぅっ、ぅっ、がっ!」
母が具体的に何をされていたのかなど私にはわからない。
ただ、母は祝福を受けていて、母は苦しんでいて、時に痛がり、悲鳴には涙が混じって、なんだか恐ろしく思えるばかりなのである。
苦しむのは、受け入れていないから。
否、あるいは。
そんな母が横にいる状況で父上は私に触れるのである。
父上は私が素直に大人しく、父上のなす事全てを受け止めていると満足そうに微笑んで、私をほめて、もっと更に私に触れた。
「ああ、ルピル。お前はいい子だ。素晴らしい。さぁ、こうして触れる全ては私からの祝福だよ、喜びを持って受け入れなさい」
言いながら父上は私の頬や目や口の中や髪だけではなく、首にも腕にも足にも、全てに触れた。
そのうちにその全てに父上自らが口を寄せるようになり、全身に父上の舌が這い回る。
「ぁっ、ぁっ、父上、父上」
私は肌に受ける刺激からくすぐったさや他の何かを感じてか反射のような声を上げ、父上はそんな私の声を微笑みを持って聞いて、そしてますます私に触れてきた。
膨らみなどない胸を舐めまわし、胸の頂きに歯を立てて、じゅっと強く吸い付いたかと思うと、ぬるんと舌で強く押す。
よくわからないがそうされるとぽってりと腫れたように膨らんだそこは、父上が口を離した後もてらてらと父上の唾液に塗れていて、それが視界の端に入る度、とても気持ち悪く私には思えた。
私の胸。父上から、祝福を受けたそこが醜悪にしか見えない。
しかし父上はそんな私の胸元を目を細めて眺めているし、これは祝福なのである。
「ああ、ルピル。なんていやらしくて美しいんだ」
父上は上擦った声で私を褒めてくださった。
父上が触れるのは私の全身で、尻は形が変わるほど強く揉まれ、左右にぐいと押し広げられたかと思うと、その間の窄まりが空気にされされた。
父上の太い指先が穴の周りを這う。
それだけではなく、私の小さな幼い雄の象徴も握りこまれたりして、そんな風に触れられることを繰り返しているうちに父上の指は私の尻の穴に触れるだけではなく、中に入り込むようになっていった。
痛かった。
その部分は入るところではなく出るところのはずだ。
だが、父上がなす全ては祝福。
父上のすることは全て受け入れなければならない。
それにそう言えば母が祝福を注いで頂いている場所はその場所なのである。
そこに、父上や騎士様や司祭様の雄の象徴を受け入れ、祝福を注いで頂いている。
ならばやはりこれは祝福なのだろう。
祝福は喜びを持って受け入れなければならない。
どれほど痛くて、気持ち悪くて、おぞましくても。吐き気がするような嫌悪はしかし、喜びを持って受け入れなければならない祝福なのだ。
そんなことを繰り返し、少し大きくなって、遂には父上から、直接祝福を注がれるようになる頃には、私は既に理解するようになっていた。
つまり祝福とは、痛く、気持ち悪く、おぞましく、吐き気を催す嫌悪を伴うものであるのだと。
それこそが祝福。
そしてそれは喜びを持って受け入れなければならないのである。
尊く、得難く、有難く、また神へと近づける行為であるのだから。
全ては聖王様のお導きのままに。
聖王様のもたらされる全ては祝福なのだった。
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