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終章・それから
エピローグ・囚われの塔の泣き虫姫
しおりを挟むそのお城には塔があるのだという。
なんでも王様が愛しい姫を捕らえる為に用意した塔。
塔の中にはお姫様がいて、毎日毎日泣き暮らしているのだとか。
それは城の中、まことしやかに流れる噂話だった。
塔は実際に存在する。
そして塔に通うのはごく一部の限られた存在だけ。
末端の侍女や侍従たちは何も知らず、そもそもこの国にいるはずの王妃様でさえ、見かけたことのある者はほとんどいない。
塔の中にいるのが本当は誰なのかも。知る人は極端に少なかった。
侍女や侍従たちなど知るはずもないのだろう。
「くだらない」
通りすがりに噂話を耳にして、そう呟いた少年はこの国の王太子だ。
彼は塔の中に誰がいるのかを、当然のことながら知っている。
なにせほとんど誰も見かけたことがないという王妃こそが、少年を産み育てた母であるのだから。
だけど。
「まぁ、あながち全部嘘と言うわけでもないんだよね」
塔の中にいるのはお姫様じゃないけれど、毎日毎日泣き暮らしているのは本当。
だけどそれがいったい何だというのだろう。
「母様は確かに泣いてばかりだけど、幸せだと言うのだから、きっとそれ以上なんてない」
それはただの独り言だった。
でも。
「さしずめ、囚われの塔の泣き虫姫、ってとこかな? そもそも姫じゃないっていう。はは。ウケるー」
ケタケタと自分で自分にウケて笑いながら、少年は塔へと向かう。
きっといつも通り泣いているのだろう、自分の母へと会う為に。
たった今、聞いたばかりの噂話と思いついた単語を聞かせてみたなら、母はいったい何と言うだろう。
きっとまた泣くのだろう。
だけどそれは少年にとって。ただ、当たり前のことだった。
Fine.
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完結おめでとうございます!お疲れ様です!なかなかない設定でとても面白かったです。御家族の末永い幸せを願っております^ ^
ありがとうございます!
面白かったと言って頂けてとっても嬉しいです!
この先もこのご家族はきっと幸せに過ごす、はず……!
お読みくださって、なおかつ感想も!本当にありがとうございました✨
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幸せなと言うのだから になってましたが
幸せと言うのだから では?
いつもありがとうございます!!
助かります!
ご指摘のところは2箇所とも修正しておきました〜!
55ページ
だけどそれおがいったい になってましたが
だけどそれごいったい では?