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第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
31・塔の外にて⑫
しおりを挟む僕が好きなのはルナス様だ。ユセアナじゃない。
否、ユセアナのことだって好きだけど、それはユセアナが僕の面倒を見てくれている侍女だからだ。
両親や親戚のおじさんとかおばさんとかを慕わしく思う気持ちと同じ。言ってしまえば身内に対する好意でしかなく、それはルナス様に対する感情と決して同じにはならないものだった。
ぶわっ、またたくさんの涙が流れる。
どうして伝わらないんだろう。
いいや、違う、どうして伝わると僕は思っているの?
僕は何も言っていない。ただ泣いているだけだ。
いつもいつもルナス様がかっこよくて、ただ、かっこよくて。
心臓がどきどきして、破れそうで何も言えなくて。
ぎゅっと、引き寄せたり、縋ったり。そんなことをするだけで精いっぱい。
でも、そうだ、それでルナス様に、何が伝わるというのか。
当たり前の話だけれど、ルナス様はユセアナじゃないし、僕の両親でもない、お城で僕が生まれた時から僕の周りにいて、泣いてばかりの僕の気持ちを、いろいろと察して推し量ってくれるみんなじゃなかった。
ルナス様と僕が出会ったのは2年と少し前。
ルナス様と僕が一緒に過ごすのは夜ばかりで、その時間の多くはベッドの中でルナス様に魔力を注いで頂くだけだった。
いつも僕は泣いていて、そんな僕に優しいルナス様は宥めるように、大切に僕に触れてくれた。
僕は気持ちよくて堪らなくて、ルナス様が大好きで。やっぱりただ、泣くばっかりで。
ルナス様はいつも僕に贈り物をくれる。でも、それにさえ僕はまともに、ありがとうの言葉さえ返せたことはない。
ただ、受け取った贈り物を大切に抱え込んで手放さないでいるだけ。
それなのにルナス様ははじめの頃、そんな僕を見て、ちょっとだけ嬉しそうな、どこか少しほっと安心したような顔をなさっていらした。
でも、そんなお顔が苦しそうに変わってきたのはいったいいつぐらいからのことだっただろうか。
最近のルナス様はなんだか苦いお顔ばかりなさっていらして、僕はそんなルナス様のお顔を見るが辛くてますます泣いてばかりいた。
僕はルナス様な考えをこれまで考えたりしたことがなかった。
だってルナス様がどんなお考えをしていらしたって、僕がルナス様のことを大好きなことに変わりはないから。僕はどんなルナス様も好き。
でももしかしたらルナス様は僕がそうやってルナス様のことが大好きだってことを、知らないのかもしれない。
だってそうでもなければ、どうしてユセアナなんて言う言葉が出てくるの?
僕は今、初めてそんなことに思い至って、なんだか途方に暮れていた。
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