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第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
30・塔の外にて⑪
しおりを挟むだけどなんだか悲しくなってますます激しく泣いてしまう。
同時に精一杯、首を横に振った。
ルナス様に触れて欲しくない、なんてあるはずがない、そう、ルナス様に伝わるように。
ついでにぎゅっと、自分からもルナス様にしがみつく。
ルナス様のお召し物が、どんどん僕の涙で濡れていった。それが申し訳なくて。でも涙は止まらなくて。
「どうして首を横に振るの? それにはどんな意味があるの? ねぇ、どうして? ああ、リュディ……」
ルナス様が途方に暮れたように僕に訊ねながら、だけどぎゅっと抱きしめ続けてくれる。
あたたかいルナス様の魔力に包まれて、僕は次第に、心が落ち着いていくのを感じていた。
とは言ってももちろん、涙は止まらないのだけれど。
ただ少しだけ、しゃくり上げる声が控えめになる。
今ならば少し離せるだろうか。
僕はゆっくりと幾度か深呼吸した。
「リュディ?」
こちらを窺うようにルナス様が僕の顔をのぞき込んでくる。僕は涙で滲んだ視界で精一杯にルナス様を見つめて、ようやくそろりと口を開いた。
出た声はとても小さい。でもきっとルナス様は僕の言葉を聞き漏らしたりなどなさらないだろう。そう信じて。
「僕はっ……ルナス、様に……陛下に。触れて欲しい、です……」
触れて欲しくないだなんて、そんなことあるはずがない。
むしろ僕に触れるのはルナス様だけがいい。
そんな思いを込めた僕の呟きは、いったいルナス様にどう伝わったのだろうか。
ルナス様は僕の言葉に驚いたようだった。
どうしてだろう。
僕はこんなにもルナス様が大好きなのに。どうして驚いたりなさるの?
驚いて、でも、ぎゅ、僕を抱きしめる腕に力が籠る。
「え?! 触れて欲しいのっ?! なんで?! でもリュディにはあの侍女がいるでしょう?」
続けて告げられた言葉に、僕はますます意味が解らない。
侍女? それはユセアナのことだろうか。
なぜ、今、ユセアナの名前が出てきたのだろうか。
僕が触れて欲しいのはルナス様にだけで、ユセアナじゃないのに。否、むしろ。
僕は首を横に振った。
「ユセアナ、にも、触って欲しくなぃ……」
ルナス様以外は嫌だった。
僕の言葉に、ルナス様はなぜかますます混乱を深くしたらしいことがわかる。
どうしてだろう。
一度おさまりかけていた涙がまた少しばかり激しくなっていく。
再度しゃくり上げ始めた僕に、やはり途方に暮れたようにルナス様は。
「え、でも、でも、リュディが好きなのはそのユセアナ? とかなんとかいう侍女でしょう?」
そんなことをおっしゃって、僕はルナス様が何を言っているのか、やっぱりさっぱりわからないのだった。
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