【完結】囚われの塔の泣き虫姫(♂)

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
45 / 55
第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)

27・塔の外にて⑧

しおりを挟む

 それを聞いてルナス様の気配がますます剣呑なものとなっていく。

「リュディがここに来ると知っていたら、あんな女、何があったって通さなかったさ!」

 ルナス様はやはり僕がここに来ることを知らされていなかったらしい。
 そして多分あの女の人のことが嫌いなんだろうなと思った。
 あの女の人、いったい何をしたんだろう、お優しいルナス様にこんなにも嫌われるなんて。
 首を傾げる僕へと、おそらくルナス様が視線を向けてきているようだった。
 視界はぼやけているから視認は出来ないけれど、注意を向けられていることぐらいは流石に察することが出来る。
 だけどすぐにそれは逸らされて。

「リュディは……確かに、大事な時期だが、しかしリュディは……」

 ルナス様はどうしてか辛そうにそう小さく吐き捨てた。
 僕? 僕がいったいどうしたというのだろう。

「俺など……これ以上、彼に触れない方が……」

 触れない方が?
 それはいったいどういう意味なのだろうか。
 僕はこんなにもルナス様以外が嫌なのに、いったいルナス様は何を言っているの?

「うっ……ぅうっ……」

 鼻を鳴らして僕は泣いた。
 悲しくて悲しくて。さっきの怖いとは違う。今度は悲しいだ。
 サネラ様の気配は、僕のことを気遣わしげに窺っていて、同時に、ルナス様のことは睨み付けていらっしゃるみたいように僕には感じられた。
 多分、間違ってないと思う。

「陛下? 貴方いったい何をおっしゃってらっしゃるんです?」
「何を言っているって、そんなもの……近くに居たら、塔に、行って彼と会えば! 触れずにはいられないだろうが! 俺はこれ以上、そんな無体は……」

 ルナス様のおっしゃってらっしゃることは要領を得ないし、よくわからない。
 本当にいったい何の話をしているのだろうか。塔と言っているから、僕のことだと思うのに。
 僕はただ泣くばかり。
 サネラ様は、そんなルナス様をしばらく見つめていたかと思うと、だけど、ややあって。

「……どうやら、何か誤解が生じているようですね。いったいなぜこんなことになっているのか……少し、お二人でお話をなさってはいかがですか。ああ、陛下はとりあえず早急にすぐにでも、彼に魔力を補充してあげてください。おそらくはもう限界ですよ。私は席を外しますから」

 はぁと深く溜め息を吐いて、続けてそう言って部屋を出て行ってしまう。
 あとに残されたのは気まずげに僕から視線を逸らすルナス様と、ぐずぐずと泣いてしゃくり上げる僕。
 ああ、ルナス様。
 限界。
 そういったサネラ様の言葉に間違いはない。
 だって頭も痛いし、気持ちが悪いし、地面が揺れている。
 さっきよりも今の方がより顕著に感じられるそれらは、間違いなく魔力が足りていない証拠だった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

一夜限りで終わらない

ジャム
BL
ある会社員が会社の飲み会で酔っ払った帰りに行きずりでホテルに行ってしまった相手は温厚で優しい白熊獣人 でも、その正体は・・・

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...