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第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
26・塔の外にて⑦
しおりを挟むなにぶん、僕の視界は涙でぼやぼやだ。
だから、女の人に睨みつけられているような気配は感じたけれど、はっきりそれを視認できたわけではない。
けど、女の人から刺すような敵意が僕に向かってきているのだけは確かだった。
女の人が部屋から出ようとしてだろう、こちらに向かってくるのを避けるように、サネラ様が少しばかり部屋の中へと進んで、僕はその後にぴったりくっつくようにして、入ってすぐの壁際に縮こまった。
「このような敵国の捕虜をまだ生かしていらっしゃるなんて。陛下もどうかしていらっしゃるわ」
そしてすれ違いざま、そんな女の人の囁き声が僕の耳にまで届く。
多分、すぐ近くにいらしたサネラ様もお聞きになったのだろう、サネラ様の気配まで尖った。
僕は、多分、僕のことを指しているのだろう女の人の言葉にぎくりと肩を震わせて、ますますだばっと涙を流す。
流石に少し距離があったので、女の人の囁きなど聞こえてはいないだろうルナス様が、だけどなんだかおろおろしていらっしゃるようだった。
何故だろう?
まさか僕が泣いているから?
でもそんなのは今更だ。
なんだかよくわからないうちに、初めて見た女の人から向けられた悪意。
悪意を向けられることそのものに経験はあっても、あんな風に、よくわからないことまで言われたのは初めてだった。
ただひたすらに恐ろしくて、そしてやっぱり気持ちが悪い。勿論、この気持ち悪さは、魔力が足りないからこそのもの。女の人から向けられた悪意は関係がない。
とは言っても、止まることのない涙に関しては、全く無関係というわけではないことだけは間違いなかった。
「リュ、ディ……ああ、そんなに泣いて……どうすれば……サネラ! 何故リュディを連れて来たっ」
怖くて、頭が痛くて、気持ち悪くて。揺れる地面と流れる涙とに知らずぼんやりしてしまっていた僕の意識を引き戻したのは、どこか苛立ったようなルナス様の声。
ルナス様が怒っている。
僕が泣いているから……それとも、僕がここに居るから?
怒ったルナス様のお声もかっこいい。思うと同時に、胸が引き絞られるように痛んだ。
そんなルナス様の苛立ちに呼応するかのように、サネラ様からも苛立ちが伝わってくる。
「なぜ? それを陛下がお聞きになるんですか? いったい何日、塔に通ってらっしゃらないんです? 今の時期が大切なのは貴方もご存じのはずでしょう? そればかりが、あんな女を此処まで通すだなんてっ……」
吐き捨てるようなサネラ様のお言葉に、僕はまたびくり、肩を揺らすことしかできなかった。
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