上 下
44 / 55
第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)

26・塔の外にて⑦

しおりを挟む

 なにぶん、僕の視界は涙でぼやぼやだ。
 だから、女の人に睨みつけられているような気配は感じたけれど、はっきりそれを視認できたわけではない。
 けど、女の人から刺すような敵意が僕に向かってきているのだけは確かだった。
 女の人が部屋から出ようとしてだろう、こちらに向かってくるのを避けるように、サネラ様が少しばかり部屋の中へと進んで、僕はその後にぴったりくっつくようにして、入ってすぐの壁際に縮こまった。

「このような敵国の捕虜をまだ生かしていらっしゃるなんて。陛下もどうかしていらっしゃるわ」

 そしてすれ違いざま、そんな女の人の囁き声が僕の耳にまで届く。
 多分、すぐ近くにいらしたサネラ様もお聞きになったのだろう、サネラ様の気配まで尖った。
 僕は、多分、僕のことを指しているのだろう女の人の言葉にぎくりと肩を震わせて、ますますだばっと涙を流す。
 流石に少し距離があったので、女の人の囁きなど聞こえてはいないだろうルナス様が、だけどなんだかおろおろしていらっしゃるようだった。
 何故だろう?
 まさか僕が泣いているから?
 でもそんなのは今更だ。
 なんだかよくわからないうちに、初めて見た女の人から向けられた悪意。
 悪意を向けられることそのものに経験はあっても、あんな風に、よくわからないことまで言われたのは初めてだった。
 ただひたすらに恐ろしくて、そしてやっぱり気持ちが悪い。勿論、この気持ち悪さは、魔力が足りないからこそのもの。女の人から向けられた悪意は関係がない。
 とは言っても、止まることのない涙に関しては、全く無関係というわけではないことだけは間違いなかった。

「リュ、ディ……ああ、そんなに泣いて……どうすれば……サネラ! 何故リュディを連れて来たっ」

 怖くて、頭が痛くて、気持ち悪くて。揺れる地面と流れる涙とに知らずぼんやりしてしまっていた僕の意識を引き戻したのは、どこか苛立ったようなルナス様の声。
 ルナス様が怒っている。
 僕が泣いているから……それとも、僕がここに居るから?
 怒ったルナス様のお声もかっこいい。思うと同時に、胸が引き絞られるように痛んだ。
 そんなルナス様の苛立ちに呼応するかのように、サネラ様からも苛立ちが伝わってくる。

「なぜ? それを陛下がお聞きになるんですか? いったい何日、塔に通ってらっしゃらないんです? 今の時期が大切なのは貴方もご存じのはずでしょう? そればかりが、あんな女を此処まで通すだなんてっ……」

 吐き捨てるようなサネラ様のお言葉に、僕はまたびくり、肩を揺らすことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

処理中です...