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第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
23・塔の外にて④
しおりを挟むそもそもユセアナと離れたのだって初めてではないだろうか。
いや、ユセアナはちょこちょこ用事を熟すため、僕から離れることはあったけど、だからほんのちょこっと。
さっきまで塔で一緒にいたし、距離だってきっと大したことないはずなのに、どうして今はこんなにも不安で心細いのだろう。
きっと初めて感じる体調不良の所為もあるし、全く知らない場所だというのもあるだろう。
サネラ様の後をついて、やっぱり全く人気のない場所を歩いていく。
ゆらゆらと覚束ない足取りで。
気を使って下さっているのだろうサネラ様の歩調はとてもとてもゆっくりだった。
何度も何度も振り返って、僕の様子をうかがっていらっしゃる。
多分支えて下さろうとなさってらっしゃるのだろう、僕の方へと手を伸ばしかけては引っ込めるという動作も、何度も目にすることになった。
でも僕はその度に少しだけ首を横に振る。
そうしたらますます、今度は気持ち悪くなってくるのだけれど、サネラ様に触れられたくないという拒否感が勝った。
サネラ様だけじゃない。ユセアナだって同じだ、僕は今、誰にも触られたくなんてない。ルナス様以外の、誰にも。
何故なら魔力は、触れ合うだけでも譲渡することが出来るからだ。
明らかに魔力が足りていない今の僕だと、きっと誰に触ってしまってもすぐに魔力が欲しくなってしまうだろう。
それが何よりも嫌で嫌で。
今の僕にはルナス様の魔力以外要らないんだ。ルナス様だけがいい。
だから。
ああ、ルナス様。
ぐずぐずと泣きながら歩く。
覚束ない足取りで、それでも懸命にサネラ様に着いていった。
サネラ様はもう何も、僕に声をかけたりしなかった。
どれだけ歩いたことだろうか。
すごくすごく長く感じたけれど、きっとそんなには遠くないんだろう。わからない。わからないぐらい歩いているうちに、段々とルナス様の気配が感じられるようになって来た。
近づいている。
ああ、ルナス様の魔力だ。
何か結界でも貼っていない限り、魔力は近くにいると察知することが出来た。
勿論、察知できる範囲みたいなものは対象の魔力の大きさによる。
ルナス様は王族なので、必然、魔力はとても多かった。
僕も多いのだけど、多分、この王宮の中では僕を抜かして、一番魔力が多いんじゃないかなとそう思う。なんて、塔から出たことのなかった僕には本当の所はわからない。
でも国にいる僕の父様や母様、妹と同じぐらいには多いのは間違いない。
サネラ様もルナス様ほどには魔力がなく、だから僕は近づくだけでもはっきりと、ルナス様の魔力を感じ取ることが出来た。
周りにほとんど人の気配がないからなおさらそれは浮き上がるようで。
ああ、ルナス様。
やっとお会いできる。
そう思うと、僕はやっぱり泣いてしまった。
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