上 下
40 / 55
第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)

22・塔の外にて③

しおりを挟む

 おそらくはサネラ様が人払いをしているのだろう、辺りには誰もいなかった。
 それはもう不自然なほど人気ひとけがない。
 夕暮れを少し超えたぐらいの時間。
 いったい何をどうしたのか、どんな理由を付ければこれほどまで、本来なら数多くの人が行きかっているだろう王宮から人を遠ざけられるというのだろう。
 不思議には思ったけれど、だんだんと悪くなっていっている体調もあり、僕は正直それどころではなく。ただ必死にサネラ様の後ろを着いていく。
 眩暈めまいがする。
 これもおそらくは魔力が足りていないからなのだろう。
 ああ、ルナス様。
 不安で不安でたまらない。
 ただ、ルナス様に会いたくて。
 だけどもうじき会える、会えるのだ。
 もうしばらくの辛抱。サネラ様は嘘をおっしゃったりしない。
 今ばかりはそれを信じるしかなかった。
 僕はこの国に着いた時、まっすぐに塔へと案内された。
 だから僕は塔しか知らず、今、歩いている所も何処なのかわからない。
 そもそも僕は自分の生まれ育った場所であるはずの王城だって、ほんの数カ所ぐらいしか知らずに育っている。
 それは長く部屋からさえ満足に出られなかったから。
 その所為で僕の世界はひどく狭く、もしやこんな風、世界が狭すぎるのが悪いのだろうか、なんてことも考えてしまって。ルナス様がいらして下さらなくなったのはその所為じゃないかって。
 きっと泣くことしかできない僕についには愛想をつかされたのだ。
 僕はルナス様をもてなすことなんて出来ない、楽しい話一つしたことがなく、結局はただ泣くばかり。
 今もぐずぐずと鼻を鳴らしている。
 視界がぼやぼやと滲んでいるのは間違いなく涙の所為だろう。
 こんな風に、泣いてばかりの僕なんてきっと鬱陶しいに違いない。わかっていながらも泣き止めなかった。
 泣きながらサネラ様の後に着いていった。
 庭のような所をいっぱい歩いて、小さな扉から王宮の建物の中に入った。
 多分壁は白いんだと思うけど、まだ少し残っている夕暮れの所為か、ほんの少し赤くて暗い。
 そう言えば夕飯の時間が近いな、なんて思ったけれど、それどころじゃないぐらい頭が痛かった。
 それにずっとぐらぐらと地面が揺れている。
 この地面が揺れているように感じるというのが多分、眩暈だったはずだ。
 僕は生まれつき魔力が多くて。
 だからいつも泣いて引きこもっている割には、体調なんて崩したことがない。
 魔力が多いと、病気にもほとんどかからないのだ。
 頭が痛いのも眩暈がするのも初めての経験で、それもまた辛くて辛くて仕方がなかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

「恋の熱」-義理の弟×兄- 

悠里
BL
親の再婚で兄弟になるかもしれない、初顔合わせの日。 兄:楓 弟:響也 お互い目が離せなくなる。 再婚して同居、微妙な距離感で過ごしている中。 両親不在のある夏の日。 響也が楓に、ある提案をする。 弟&年下攻めです(^^。 楓サイドは「#蝉の音書き出し企画」に参加させ頂きました。 セミの鳴き声って、ジリジリした焦燥感がある気がするので。 ジリジリした熱い感じで✨ 楽しんでいただけますように。 (表紙のイラストは、ミカスケさまのフリー素材よりお借りしています)

【R18+BL】空に月が輝く時

hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。 そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。 告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。 ★BL小説&R18です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...