【完結】囚われの塔の泣き虫姫(♂)

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
33 / 55
第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)

15・侍女の誤認識と、愛しい彼を想うこと④

しおりを挟む

 ルナス様は本当にお優しい。
 多分きっと、塔に閉じこもる僕をかわいそうに思って下さったのだろう。
 ある時からルナス様は、小さな贈り物を僕に持って来て下さるようになった。
 それは本当に些細なもので、キレイな花一輪から、日常使いできるような小物など、多岐に渡った。
 その中でも一番多かったのは花だろうか。
 一番初めに送られ花は、特に印象に残っている。
 きっと、執務室だとかに飾られていた花を一輪、抜き取ってきてくださったのだろう。キレイに処理された青紫色の花。
 だけどとても色鮮やかなそれ。
 僕の瞳の色とも少しだけ似ていた。
 塔の中の内装は、とても淡い色味に満ちていた。
 白だとかクリーム色だとかが多かったのだ。
 それはおそらく、閉じこもってはいても、気分まで落ち込まないようにと明るい色で揃えてくれていたのだとそう思う。ルナス様の気遣いだ。
 だけど少しばかり色味に乏しかったのも本当で、僕は何にも気にしたことなんてなかったのだけれど、頂いた花一輪であったとしても、他にはない鮮やかさは、パッと、塔の中全体を華やかに彩るかのようだったのだ。
 花を一輪。
 ルナス様から差し出された僕は、ようやく辛うじて受け取りながらもはやりいつも通り泣いてしまって。ルナス様はやっぱり戸惑われるばかりだった。
 嬉しかった。
 嬉しくて嬉しくて。本当にルナス様はカッコよくて優しい。僕をこんなにも好きにさせていったいどうするつもりなんだろう。
 僕の中にはもう全部ルナス様しかない。

「ああ……かっこいい……」

 うっとりと、頂いた花に保存魔法をかけて、枯れたり萎れたりしないように手元において、見つめながら呟く僕に、ユセアナはあきれ顔。
 その頃になると流石に段々と、僕も夜のあのルナス様に触れて頂く行為にようやく慣れてき始めたのか……――本当のことを言うとただ単に、翌朝かける治癒魔術の加減・・を覚えてきて、全く全てを真っさらに治してしまうのではなく、ある程度は感覚・・を残した方がいいとわかってきていたので、体を馴染ませられるようになって来たというか、そういう理由で毎晩のように血を流すなんてことはなくなってきていたので、ユセアナの憎まれ口のようなものも控えめになってきていて。
 僕はユセアナの口からルナス様を責めるような言葉が出て来ないだけでも、少しばかり嬉しく思っていた。
 それでも、僕の言動に溜め息を吐くのは変わらない。
 いつものことだから僕だって気にしない。
 それより大事なのはルナス様。
 かっこよくて優しくて、本当に素敵なのだ。
 だから僕は日々、ルナス様への思いを募らせるばかりだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

一夜限りで終わらない

ジャム
BL
ある会社員が会社の飲み会で酔っ払った帰りに行きずりでホテルに行ってしまった相手は温厚で優しい白熊獣人 でも、その正体は・・・

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...