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第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
14・侍女の誤認識と、愛しい彼を想うこと③
しおりを挟む「大丈夫だよぉ、ちょっとずつ、痛くなくなってきてるよ?」
苦しいし大変だし嵐みたいだけれど。
それでも確かに段々と痛くはなくなってきているし、シーツに広がる血も少なくなってきていると思う。
「そうでなければ困ります。まったく。いくら必要なこととはいえ、いつまでもこんな……」
ユセアナは嫌そうな顔をしたまま、やっぱりぶつぶつと何か言っていた。
僕は首を傾げる。
変なの。
毎晩毎晩、泣くばかりの僕をいつだって持て余す様子のルナス様に、それでも毎晩、僕に触れるようにと促すのはユセアナの方なのに。
「当たり前でしょう。それをリュディ様は望んでいるんですから。それにもうお子様も成ってらっしゃいますからね。触れて頂かなければ困ります」
つまりはやっぱり僕を思ってということなのだろう。
僕は嬉しくなる。
「うふふ。いつもありがとう、ユセアナ! 愛してる!」
感謝はまっすぐに伝えるべきだ。
相変わらず泣いたまま。だけど僕にしては明るい口調でそう告げると、ユセアナははぁと疲れたように溜め息を吐いて。
「はいはい、ありがとうございます。そうおっしゃって頂けてなによりですよ」
なんておざなりに相槌を打った。
これは僕らのいつも通りのやり取りで、つまりは僕の口調も言葉も軽いからこそのものだった。
ちなみに故国にいる時には当たり前に父様や母様、妹にも、
「ありがとう、愛してる!」
なんて連呼していたので、ある意味では僕の口癖のようなものなのかもしれない。
勿論、みんなをそれぞれ愛してるのも本当だけれども。
ルナス様を思う時のどきどきとは違う。
近くにいると緊張して余計に泣いてしまったりする。
そういうのとは違って、安心するとか、そういう感情。
でも僕が、両親や妹、ユセアナのことが好きなのは間違いじゃない。
僕はみんな大切だった。ああ、でも今、一番は。
「この子と、ルナス様かな……」
ルナス様と僕の子供。大切で大切で愛しい。
順調に育っている。
これ以上なんてないと僕は思っているし、それはユセアナもわかっている。だから溜め息を吐くだけで、結局は夜になると、ルナス様を促してくれるのだろう。
ああ、でも。
「もし、ルナス様にも僕を好きになって頂けたら……きっともっと幸せだろうなぁ」
僕はそうも思うのだ。
本当はわかっている。きっとお優しいルナス様は僕をかわいそうに思って、触れて下さっているだけなのだろう。
それでも、少しでも好きになって欲しいなぁ、なんて僕は思っていた。なんにも出来ない僕だけれども、いつか。
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