25 / 55
第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
7・世界は輝いている⑦
しおりを挟むちなみに僕は衣装もあまり持っていない。
持って来れなかったというのもあるし、もともと持っていなかったのも本当。
あって精々、洗濯に困らない程度。勿論、それぞれの質に関しては、公子という身分に見劣るほど粗末なものではないのだけれども。
今身に着けているのは、一応輿入れになるというので、急遽新しく誂えたものだった。
身につけたことがないというぐらいには、洗練されていて、なおかつ華美だ。
だけど先程、ここに着いてからちらと目にしたルナス様やサネラ様はもとより、他のお仕着せ以外の人たちの様子を見るに同じ程度の派手さしかなく、つまり盛装には程遠いということ。一応礼服にはなるのかな……? とは思うのだけれど、結局僕にはよくわからないまま。
輿入れと言ってもお披露目もなければ婚姻式などの儀式も予定されていないのだと聞いている。一応人質という側面があるが故に。
ご説明下さったサネラ様は、大変心苦しそうなご様子だったけれども、僕は全く気にしていない。
儀式だとかそういうのに興味はないし、夜会だとか社交だとかも正直面倒くさい。むしろただここでずっと好きに過ごすだけでいいと聞いて、有難いとさえ思っていた。
と、言うか、同じ敷地内、近い場所にルナス様がいらっしゃる。それを考えるだけで僕は幸せなのだから。
しかも。
「ねぇ、ユセアナ、ルナス様って今晩いらっしゃるのかな?」
実は来ると聞いているのである。
夜に、お渡りがある予定なのだと。
少しばかり、自信なさげな声音になってしまっていたのだろう、否、声に涙が滲んでいるからか。なんて、そんなのはいつものことなのだけれども。荷物の整理をしていたユセアナの手が止まり、彼女は僕の方を振り返った。
いったい僕の何を確かめているのか、注意深い視線。
「……いらっしゃると、おっしゃっておられましたね」
返ってきたのは肯定。
僕はほろほろと頬を伝う涙もそのままに、ほわと気付けば微笑んでいた。
「そっか。……そうだよね」
うふふ。
なんだかふわふわする。
胸がくすぐったい。
ああ、そうか、そうなのか。ルナス様は、今晩いらっしゃる予定なのだ。
お渡り。
その言葉の意味を、実は僕はよく知らないのだけれど、何があったってかまわないとそう思う。
だって、ああ、会える。それだけでいい。
「ふふ……うふふ、ふふ。楽しみぃー!」
相変わらず涙を止める術さえ分からないまま、僕は笑った。夜が待ち遠しくて堪らなかったからだった。
4
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「恋の熱」-義理の弟×兄-
悠里
BL
親の再婚で兄弟になるかもしれない、初顔合わせの日。
兄:楓 弟:響也
お互い目が離せなくなる。
再婚して同居、微妙な距離感で過ごしている中。
両親不在のある夏の日。
響也が楓に、ある提案をする。
弟&年下攻めです(^^。
楓サイドは「#蝉の音書き出し企画」に参加させ頂きました。
セミの鳴き声って、ジリジリした焦燥感がある気がするので。
ジリジリした熱い感じで✨
楽しんでいただけますように。
(表紙のイラストは、ミカスケさまのフリー素材よりお借りしています)
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる