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第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
4・世界は輝いている④
しおりを挟む僕をシュネリニアへと呼び寄せたのは他でもないルナス様。
一応は名目上は、隷属の証として跡取りであった第一公子を差し出したということになっているけれども、シュネリニアの一部の貴族たちへは人質の役割があるのだと思わせてあるとのことで、滞在先が塔となったのは、対外的にだけでも人質らしく見えるようになのだと聞いている。
だけど実質は、否、本当は妃として迎えたいのだと。書類上だけでも入籍は済ませるのでそういったこと全てを承知しておいてほしいと僕に説明してくれたのは、ルナス様とは親友なのだという、宰相をしているサネラ様だった。
僕は泣いた。嬉しくて。
父様も母様も、僕たち家族を守ってくれていた人達は皆、全部承知した上で、快く僕を送り出してくれた。
「リュディ、よかったなぁ、ずっとお慕いしていたのだから」
そう僕を抱きしめて送り出してくれたのは父様。
「リュディ、幸せになるのよ」
そんな風に、泣いていらっしゃったのは母様。
「にいたま、いってらっしゃい」
幼いゆえ少しばかり舌っ足らずに、よくわからないまま手を振っていたのは妹で、他の皆からも祝福されて僕はシュネリニアに向けて出立したのだった。
僕は浮かれていた。
本当に。
こんな幸運はない。何せ僕は幼い頃から一心に心から惹かれていた相手の側近くへと、この身を寄せることが出来るのだから。
僕は泣いて泣いて泣いて泣いて。
涙が枯れそうなぐらいに泣き続けた。
勿論、幸せだったからだ。
僕の涙腺は相変わらず大変に弱くて緩みっぱなしで。えぐえぐ泣くばかりの僕を、僕の小さい頃からずっとそばについていてくれている侍女のユセアナは呆れかえって放置した。
いつも通りだった。
「うぅぅ……ルナス様ぁ! う、嬉しい! ぼ、ぼぼぼ、僕、ルナス様のお嫁さんになるの? 本当に? うぅ……ひっく、ん、ゆ、ユセアナぁ……! こ、これは夢かなぁ? 僕、起きながら夢を見ているの……? ねぇ! こ、こんな幸せでいいの……? やばいぃ~~! 楽しみだよぉう、気絶しそぉ……!」
泣きながら大変にテンションの高い僕に、ユセアナからの視線はひたすらに冷たく、何度も何度も溜め息を吐かれたのだけれど、でも僕は知っている。
これでいてユセアナは僕をとても大切に思ってくれているのだということを。そうでもなければ、どうしてシュネリニアにまで着いてきてくれるというのだろう。
サネラ様のお話しからしても、多分シュネリニアでの扱いはよくはないだろう。
テュナコルのしでかしたことを考えるとそれは仕方がないことだと僕は思っているし、正直な所、どうでもよかった。
だって何がどう転んでも、ルナス様の側近くに赴けることは間違いないのだから!
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