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第2章・まるで夢のような日々(リュディ視点)
3・世界は輝いている③
しおりを挟む力ない父様と母様では、それ以外に僕を守るすべがなかったのだろう。
なにぶん、美しい、という理由だけで年端も行かない幼児を欲しがる貴族だ。もし僕がそんな貴族の手に渡っていたとしたら、きっと碌なことになっていなかったはずだ。いったい何をされて何をさせられていたことやら。想像するのも恐ろしい。
僕は泣いた。泣いて泣いて泣いて泣いて。ただ、僕が泣くのはいつものことだった。
僕は元々あまり声が大きくないので、泣いてもうるさいというわけではないのだそうだ。勿論、ずっとしくしくわんわん泣き続けられると鬱陶しいことことの上ないのは確かなのだけれども。
父様も母様も、僕の近くの侍従や侍女もついには早々に慣れてしまって、僕は常に泣いているもの、というような認識になっていたらしい。
また、僕はいつも泣いている所為かよくわからないのだけれど、泣いている以外はおとなしい子供ではあったようで、元々闊達に動くような子供ではなかった。
外で走り回るより、部屋の中でじっと本を読んでいるだとかいうようなことの方が好きだった。なんならそれさえせずにぼーっとしていることさえあるような子供だった。
なので、泣いてはいてもそれはいつものこと、部屋の中に閉じこもっていてもいつも以上に泣くわけではなく、そのうちに部屋から出ないのは当たり前になっていった。
と、言うか、僕の記憶している限り、それで不便だと感じた覚えがない。
部屋と言っても何室かは続き間になっていたし、風呂もトイレもあったし、部屋そのものも広く、窓もあったので閉塞感はなかった。
そしてそれまで一応は反意などなかったはずの僕を欲しがっていた貴族は、家族が僕を閉じ込め、僕に会うことも攫うことも出来なくなったせいなのかなんなのか、いつの間にか国を乗っ取ってしまったのである。
父様と母様と、その頃には生まれていた僕の妹は僕達を守るためにと、両親を慕っていた者たちによって部屋に閉じ込められて、おかげでそれ以上に害されることはなくそのまま数年。
実は僕はいまだにこの辺り、何がどうなっていたのかよくわからないのだけれど、とにかく家族揃って閉じ込められていて、軟禁生活を送っていたのは確かで、僕達が解放されたのは、いつの間にか件の貴族が勝手に起こしたのだろう隣国シュネリニアとの諍いの末、勝利したシュネリニアの軍が王宮にやってきてからで。
いくら解放されたからと言って、そもそも開放してくれたのが隣国の群。その状況で僕達に何が出来るわけもなく、つまり僕の生まれ育ったテュナコル公国という国は、シュネリニアの一領土となってしまったのだった。
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