13 / 55
第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
12・君に捧げる花の色②
しおりを挟む塔の内壁や家具は、一応気が滅入らないようにと明るめの色で揃えてあり、逆に言うと少々色味が乏しい。
だからひとまずと、持ち込む一輪の花は、鮮やかな色の物を選んだ。
花言葉などはわからないから、そこまでは気にしないことにする。
ただ色は彼のイメージに近い寒色系にした。
なお、たとえ花一輪であっても、いずれにせよ大っぴらには選べないので、俺の執務室に飾られているものの中から一輪を抜き取ることになった。
それぐらいならば、流石に誰かに見咎められることもないだろうという判断だ。
否、例えばごくごく時折であるならば、ご機嫌伺だとかなんだとか理由をつけることが可能だろうか。でも流石に今すぐになど出来るはずはないし、俺は今すぐにでも彼に何かを送りたかった。
俺の執務室には常に、侍女や侍従、護衛が控えている。護衛は流石に噂好きだという者は少ないが、侍女や侍従は別で、そして彼ら彼女らでさえ、厳密に評するなら信頼しきることはできなかった。
いつどこに誰の目があるのか、全くわからないのである。
執務室の中から花を一輪。
たったそれだけでさえ、自由には出来ない自分の立場が悩ましい。
俺が息を吐いて何も気にせず発言できるのは、それこそサネラの前でぐらいのもの。
だからこそ彼の前では飾る必要がなく、口調も荒くなれば、心情もいくらだって吐露できた。俺が何か贈り物をしたいというのも、考えた末、それは花一輪だとも伝えてあったので、協力してくれたのはサネラで、俺が選んだ花を、彼の方が抜き取ってくれる。
その上で周囲に悟られないようにと俺に手渡した。
俺は受け取った花にこっそり保存魔法と認識阻害をかけ、そっと潰さないようにだけ気をつけて胸元に忍ばせた。
俺は魔法や魔術が苦手というわけではないけれど、得意というほどではなく、特にかけることが出来る認識阻害なんて、この小さな花、一輪程度。だからこそこっそり行動したり、花束を用意したりなどが出来ないのだった。
同じく結界を張るのも得意ではないので、それはつまり彼のことを守り切れない理由に通じた。
あの塔にはもともと塔と場所そのものに、魔力を流せば容易に結界が施せるような仕掛けが仕込まれており、だからこそ選んだ場所なのだ。そうでもなければ、まるで犯罪を犯した者を閉じ込めるかのようにも思える塔の上など選ばない。
どきどきと、妙に高鳴る胸を持て余しながら彼の元へと向かう。
彼を迎え入れてからひと月と少し。こんな風に、なんだか落ち着かない気持ちで塔へと通うのは、すっかり俺の日常と化していた。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる