12 / 55
第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
11・君に捧げる花の色①
しおりを挟む優しくする、とは言っても。それだけではこれまでと何も変わらない。そう思った。
本当は塔から出せればいいのだけれど、それにはまだ少しばかり時間がかかる。
彼を塔に捕えたのは、彼を迎え入れることそのものを反対する者が少しばかりであっても存在する為だった。
しかもそう言った者の中には、なかなかに手段を選ばないと評判の人物も含まれていて、かつ王宮への影響力もある相手で。
このまま彼を王妃として王宮に迎え入れてしまうと、彼を守り切れないかもしれない状況なのである。
彼を塔へと留め置いているのは、そんな中で一番彼の安全を確保しやすいからに他ならない。
そうでなければ誰が好きな相手を、あのような場所へと留め置きたいものか。
なにせそもそも、問題となっている者達の反対理由は元テュナコル公国側にあり、と、言うかそれを理由にされていて、実際に元テュナコル公国側の過失は明らかで、そこを気にすること自体は何らおかしな行動ではなく。とは言え、勿論それ以上に過剰に何かを仕掛けてくるならそれはそれでこちらも相手を咎められるのだけれどもそこまではせず、だからこそ表立っては対処しづらく、かと言って本当に何か彼に危害が及べばと想像するだけで恐ろしくて。
ともかくそのような理由があるので、彼をまだ塔から出せない現状はまだまだしばらく変えられる見込みが見当たらなかった。
彼が早々に身ごもったのはこちらとしても予想外だったのだが、子供が出来たこと自体は大変に喜ばしい。
ただし、同じような理由により、この後、彼が子供を生んでからも状況が改善されていない場合は、そのまま子供も塔で育てられる予定となっていた。
勿論、その方が安全だからだ。
なら何か贈り物を、と思っても、同じ理由で表立って彼へと何か貢ぐことも出来ず、そもそも俺が、例えば夜に彼の元へと訪れる際に、花束など目立つ物を持っていたりなどしたならば、それだけでも周り巡ってどう影響するかわからない。宝石などの予算がかかるようなものなど以ての外だ。
服は予め不自由ないだろう程度にはそろえてあるし、消耗品と言えなくもないので全く差し入れられないというわけではないだろうけれども、それだって過剰には難しい。
そんなこんなで、もし何か彼に捧げられるとしたら、花束にもならないような服に忍ばせられる程度の数本の花、あるいはごくごくちょっとした小物程度。
それでも何か贈りたい。そう思ったらいてもたってもいられなくなって。
手に取ったのは、花だった。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
どうしようもなく甘い一日
佐治尚実
BL
「今日、彼に別れを告げます」
恋人の上司が結婚するという噂話を聞いた。宏也は身を引こうと彼をラブホテルに誘い出す。
上司×部下のリーマンラブです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる