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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
7・受理できない嘆願と、泣くばかりの彼について⑤
しおりを挟む内心ではしぶしぶ。だけど可能な限りそれを表には出さずに向かった塔の中で、彼はやはり泣いていた。
「お待ち致しておりました」
彼が母国から連れてきたのだという侍女が丁寧に俺を迎え入れる。
妙齢の女性で、親子ほどとまではいわずとも、それなりに彼とは年が離れているように見えた。おそらくは俺よりも年上だろう。
半日ほど前の、この塔へと迎え入れた時もそうなのだが、今も表情があまり変わらない。
反して、彼の方はというと。
「ぅっ……ふ、ぅう……っ」
ヒックヒックとしゃくり上げ、顔を伏せこそすれ、隠すこともなく泣いている。
なのに流す涙さえ美しい。
彼の泣き顔を見ていると俺は胸がどきどきして、股間に熱が灯るのを自覚せずにはいられなかった。
罪悪感がずきずきと疼いた。
彼は泣いている。
ひどく、かわいそうだ、そう思うのは本当なのに、なぜ俺の股間は固くなっているのだろうか。
まさか泣き顔に興奮しているのか。我ながら度し難い。
「あー、その、なんだ。えーっと、俺は、だな……」
なんと声をかけて良いのかさえ困って、ちらと慇懃に頭を垂れたままの侍女に助けを求めたのだけれど、彼女は顔を上げることはなく、それどころか。
「どうぞ、リュディ様をお慰めくださいますよう」
などと俺に促しさえしてくるのである。
慰める。慰めると、言ったって。
どうすればいいのか戸惑いながら、俺はおずおずと彼の元へと近づいていった。
塔の中は可能な限り、彼が快適に過ごせるように設えた。
彼のいるこの部屋は塔の中の一番上で、窓は胸元ぐらいの高さの物しかない。その上、全て、転落防止及び侵入防止も兼ね、人が通れるようには作られておらず、鉄格子がはまっている、というわけではないのだけれど、それに等しい細さの窓が点在しているような状況だった。
外の景色を見ようと思えば見れなくもない、という程度ということだ。
いくつかの部屋に区切られていて、塔の壁面に添うように続く螺旋階段を昇りきって扉を開けてすぐのこの部屋は、今と言えばいいのか、応接スペースが設えられていて、塔の内側には下へと続く階段とそれを囲う柵、部屋の奥側には隣の部屋への扉があった。
彼は応接スペースのソファへと腰かけ、ほとほとと泣いていて。俺は少し迷って、彼の横へと腰かける。
慰めるというのなら、向かい側では少し距離がありすぎるような気がしたためだった。
ソファは二人掛けでそれほど広くはないため、隣に腰掛けると、肩や肘が彼に当たってしまう。
可能な限り、彼へと触れないよう気を付けて座ったのだが、どうしてか彼の泣き声がますますひどくなってしまった。
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