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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)

6・受理できない嘆願と、泣くばかりの彼について④

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 ちなみに俺の口調が国王という立場にあるまじきほど悪いのも、宰相であるサネラが、幼なじみといえどどう考えても俺の扱いが粗雑なのも、全ては俺の両親に起因する。
 生まれは確かであるはずの彼ら・・は……――なお、俺の母も男性なので、彼ら・・であっている。ともかく、俺の両親は、冒険者として各地を放浪することを趣味としていた。
 と、言うよりそうして過ごしたかったのに、しぶしぶ国王と王妃という職を熟していたにすぎず、したがって結果的に私的な場では、到底王族どころか貴族にさえ見えない言動ばかり繰り返すような人たちだった。
 そんな両親に育てられた俺が、品良く育つはずがない。近しく育ったサネラも同じだ。
 まだ何とか俺に向かって敬語を使ってくる辺り、少しばかり意識は出来ていると言えるのだろう。
 気の置けない相手であることは確かなのだけれども。
 ともあれ、両親に期待をかけるのは無駄だと言われると頷かざるを得ず、だからと言って、着いたばかりの彼の元へと思うとどうしても素直には頷けず。だと言うのに、サネラは更に言葉を重ねてきた。

「あんた、あの第一公子殿下のこと、好きなんですよね?」
「お、おう、そりゃ……好きだけど。お前も見ただろ? あの美しさ……変わってない、いや、ますます神々しくなっていた……」
「そりゃ、確かにお綺麗ではありましたけどね」
「だろ?!」

 訊ねられ、陶然とあの子のことを思い出す俺に、サネラは肯定しながらもあきれ顔だ。

「ならいいじゃないですか。そんな麗しの第一公子殿下に触れるのは、貴方からすれば本懐でしょうが」
「いや、だからだなぁ、今日の今日だぞ?! 着いたばっかりなんだぞ?! 泣いてたんだぞ?! ちょっとは落ち着く時間って言うのも……」
「今日の今日だからでしょうが。今日行かなきゃ蔑ろにしてるって見られますよ。彼の受け入れに反対している奴らには軽んじられるし、彼が妃になることを賛成してる人達のことだって、安心させてやるべきでしょう。そういう人たちは僕と一緒で、あんたの後継者問題を憂いてますからね。むしろ貴方が彼の元を訪れないと知ったら不安に思うんじゃないですか? せっかく迎え入れたのに、彼でもダメだったのかって。あとは、前者の奴らに対しての言い訳もしやすくなるでしょ、どういう意味であれ、あんたがあの方に固執してるって見せるのは、決して悪いことじゃありませんよ」

 つまり、受け取り方次第、ということなのだろう。否、いずれにせよ今日の夜、彼の元を訪ねることそのものはした方がいいと繰り返し告げられ、俺はむすと不機嫌な顔を取り繕うことさえできなかった。

「でも、夜だぞ?! 夜に、好きな相手の元へ行くんだぞ?! そんなの、そんなことしたら俺は……」

 結局俺が躊躇するのは自信がないからだ。俺自身の、自制心に。そしてそれはサネラもわかっている。

「だから、それを込みでって言ってるんですよ。あと、さっきも言いましたけどね、これはあちらも望んでいることだそうですよ。彼の侍女曰くね」
「あちらもって……」

 昼間の泣き顔を思い出すと、到底そんな風には思えない。だが、彼の侍女がそう告げてきて、サネラも此処まで促してくる。
 何より俺自身、たとえ一目であっても彼を目にしたいという欲求を自覚してもいても。結局俺はそれ以上抗いきれず、その日の夜に、彼の元へ訪れることとなったのだった。

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