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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
2・実はずっと好きだった
しおりを挟む俺があの子……――リュゼディア・テュナコル、テュナコル公国第1公子、リュディに出会ったのは、実はずっと前である。
当時俺は15歳。リュディはたったの3つだった。
この国で開かれた建国祭に、来賓として来ていたテュナコル公国の大公一家。
まだ幼かったリュディは、当然公の式典に参加していた訳ではなく、家族旅行がてらなのだと微笑む大公夫人と我が王国の王宮の中庭を見学していたようだった。
爽やかな風。舞い散る花びら。俺に気づいて振り返ったリュディは……控えめに言って天使だった。
艶やかな淡い水色の髪と、青みの強い、紫水晶より澄んだ紫色の瞳をしていて、その惹かれずにはいられない透き通った眼差しが、みるみる潤み、涙を溢れさせる様のなんと美しかったことか。
俺はひと目で心を奪われてしまった。
リュディはまだたったの3つだったと言うのに!
その後、一目惚れした天使に号泣されて、途方に暮れたことも、俺は昨日の事のように思い出せる。
なにせその後、俺がようやくリュディと再会できたのは、リュディが俺の元へと輿入れしに来てくれた日だったのだから余計に、だ。
つまり俺とリュディの歳の差は12歳。
今、俺は28歳でリュディは16歳。
歳若い花の盛りとも言えるリュディをあのような塔の上に捕えるのには抵抗があったのだけれど、安全を考えたら仕方がない。
この国はまだリュディにとって、安全とは言いきれないのだから。
もちろん、国民の多くも、貴族や城の者の多くも、リュディにはなんの罪もないことなんてよくわかっている。
問題は一部の貴族と、その貴族に阿るやはり一部の城の者たち。
いかに大公一家が囚われていたからと言って、テュナコルのこれまでの所業から、むしろ第一公子など見せしめにしてしまうべきだと主張する者たちがおり、ましてや王妃として迎えるなど認められないと反発を受けていて、彼らをどうにかするまでは、如何に王宮内と言えど、リュディの安全を保障できないのが現状だった。だからこそおそらくはこの国で一番安全だと思われる塔へと彼の居室を定めたのだけれど。
たとえ見た目だけでも塔に閉じ込めてあるとでも思わせれば、彼らを黙らせることが出来たし、そうでない者達に対しては、リュディを守るためなのだと示すことも出来た。
それぐらい王宮にある、リュディの居室とした塔は特殊な建物なのである。
聞けば何百年か前の王妃の居室でもあったのだとか。時の王は大変な執着でもって、王妃が他者の目に触れるのも、王妃が他者を目にすることさえ許さなかったのだと伝わっている。
そのような曰く付きの塔は、なるほど立地なども含めて大変に結界なども張りやすいつくりと成っていて、何よりも中の利便性などは、充分に確保されていた。
ただ、外には出づらく、外からも侵入しづらいというだけで。
リュディはこの国に到着して、その塔へと初めて案内された時。その美しい青紫の瞳を、溶けそうなほど潤ませて。やはりしくしくと泣いていた。
息を飲むほどに美しい泣き顔。
それが、俺が13年ぶりに見る、愛しい人の姿だった。
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