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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
1・これまでの話。あるいはこの物語の前提。
しおりを挟むちなみに、忘れた頃云々は嘘である。
何故なら俺は彼を迎え入れたその日に彼に会いに行ったからだ。
彼が俺の妃となったのもその日のうちで、俺が泣くばかりの彼に触れたのだって。
本当はとても可哀想で物凄く躊躇したのだけれど、宰相で幼なじみのサネラが、早く世継ぎをとせっついて、渋々迎えた初夜だった。
なお、泣いている彼を宥めながらようやく踏み入れた彼の中は、控えめに言って天国だった。
あまりに気持ちよすぎてそのまま昇天するかと思ったが、ちゃんと朝目覚められたので大丈夫だったようだ。
物凄く一生懸命大事にしたつもりなのだけれど、彼は泣き止まなかったので彼には辛いばかりだったのかもしれない。
仕方がないことだと思う。
なぜなら彼は祖国の為に、俺に輿入れしに来てくれたのだ。
如何に彼の祖国が、貴族たちの裏切りにより、他国へ勝手に攻め入れられていたのだとしても。
大公家一家たる彼の家族が全員軟禁されていて、一切の自由を奪われていたのだとしても。
むしろ彼の家族を救い出したのが我が国の兵士で、そもそも彼自身が美しさゆえに謀反人たる貴族に求められていて、逆らった末の軟禁だったのだと聞いている。
彼の家族たちは彼自身を守ったのだ。
彼自身が結界術に優れていたのも功を奏したのだろう。
その代わり、彼に触れられなかった謀反人たる貴族は国を滅ぼしてしまったのである。
自らの配下たる貴族を御しきれず、彼を守るだけで精一杯で、結果、民を戦果に晒した大公家は当然責任を取ることとなり、元凶たる彼が我が国へと差し出されることとなったのだった。
民にも事情は広く流布されていたのは良かったのか悪かったのか、国民からの嘆願もあり、我が国の監視と指導を条件に大公家はそのまま、我が国の一領土となった元公国領を統治する領主となっている。
そのような事情で我が国へと迎え入れられた彼が俺を受け入れられないのは仕方がないことだった。
如何に俺が彼に好意を抱いていて、慣れない愛を捧げているのだとしても。
いかにこの王宮でいちばん安全だからと言って、このような塔の上へと彼を留め置いているのもよくないのかもしれない。
彼は泣き止まない。
いつか、彼の涙を拭いさり、笑顔を見たいと絶望しながら、それでも彼を手放せない俺はなんと罪深いことなのだろう。
なお、彼、という呼び名でわかる通り、彼は本当はお姫様ではなく王子様である。
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