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しおりを挟む結論から言うと子供は出来なかった。
否、作ろうと思えば作れただろう。けれど、それが叶わなかったのはつまり俺の問題で。
欲しいと、そう、願っていたはずなのに、同時にどこかで躊躇してしまっていたのだろう。あるいはそんなことにまで意識が回せないぐらい、フィムに夢中になってしまっていただけなのか。
初めての性行為は、気持ちいいだとかなんだとかいう次元を飛び越えて、ただひたすらに凄くて。
胎の中、というか、俺の尻に、フィムの、めちゃめちゃでかいアレが入っていたのは間違いないし、長いこと揺さぶられて、何度も魔力を注がれた。
いつの間にか意識がなくなって、そのまま寝て、起きて今も。俺の体の奥の方では、フィムの魔力が濃く渦巻いている。
これをこのままこねたら、子供になることはわかっていた。
けれど、なんだかそれが惜しくて、もったいなくて。
まだ、俺だけで堪能していたくて、だから、今となっては子供を作るのは、せめてあと数回、フィムと仲良く過ごしてからでいいと思っている。
それを一にするかは、フィムとも相談したいとも。
フィムのあれは信じられないぐらいに大きいし、俺は小さいままだし、けれどケガをしたりだとかは、どうやらしていないようだった。
多分フィムが執拗に、それはもうこれでもかというぐらいに、時間と手間をかけて、俺と蕩けさせてくれたからなのだろう。
衝撃は、どうしようもなく大変なものだったけれど、それだけで、今も、痛いだとか言うことはない。
ただ、違和感はひどいし、全身が重怠く、特に下腹部は熱を持って、いまだにじくじくと疼いているように感じられる。
とは言え、それは痛みではなく、違和感だ。
まだお尻に何か挟まっているような感覚が残っているのは、大きすぎるフィムを受け入れた弊害なのだろう。
フィムと俺の体格差で、初めて性行為に挑んだにしては、体の状態は決して悪くなんてなく、それはつまりどれだけフィムが俺のことを気にかけてくれていたのかという証明のようで。何より、
「多分、全部は入ってなかったしな……」
正直、記憶は定かではないが、間違いないだろう。
流石に、フィムの全てを受け入れていたら、今よりもっと大きな違和感を抱かずにはいられなかっただろうから。
特に胎の中は、今、疼いている部分より更に奥まで、熱が広がっていたはずだ。
フィムに、気遣われている、それはつまりどれだけフィムが俺に心を傾けてくれているのかの証のようで。
ふわふわと、心が満たされていくようだった。
今、俺はフィムの愛に満ちている。
体の隅々、腹の奥まで。
それが、なんだかくすぐったくて、愛しくて。
くすくすと知らず、笑いがこぼれた。
今、俺はこれまで感じたことがないほど、満ち足りている。
「ん……アーシャ? ……起きたの?」
そんな俺に、気付かないわけがなかったのだろう、すぐ隣で眠っていたはずのフィムから声がかかった。
起こすつもりはなかったので、少しだけ申し訳なくなる。
ただ、俺は目が覚めて、改めて昨夜の、否、たった数時間前の行為を思い出して、幸せに浸っていただけなのだから。
「うん、ほんの今、さっきね。ごめん、起こしちゃったな」
そりゃ、隣でぶつぶつ呟いたり、くすくす笑ったりしていたら起こさないはずがない。
好意で疲弊しているのは、フィムも同じはずだから余計に。
フィムは、改めて俺に向き直って、じっと注意深く俺を見て。
ややあってから、どこか、安心したように微笑んだ。
「どこかも、辛い所とかはなさそうでよかった」
どうやら俺の不調を確かめようとしていたらしい。
俺は頷く。
「うん。大丈夫。そりゃ、違和感とかはあるし、万全、とまではいかないけどさ。でも、なんか、あの……初めてで、あんな。凄いことしたのに、思ってたより全然平気だ」
前世で。例えば、1人で遊ぶために色々な道具を使った時には苦労した。
特に初めて、尻に何かを入れた時なんて、なかなか入らなくて痛くて。
その後だって、腹の違和感はひどかったし、それに近いものは確かに今も感じているけど、でも。
今は、その時とは比べ物にならないぐらい、体の調子としては、悪くなかった。
もっとひどい状態になる覚悟もしていたのに、そんなことは全くなくて。
愛されている、大事にされているのだと感じられた。
そうしたら、なんだか胸がくすぐったくなって。
今も、フィムは俺を気にかけてくれている。
それが嬉しい。
「フィムが、ずっと俺を気遣ってくれてたからだろ? ありがとう、フィム」
フィムは初め、行為自体も止めようとしていた。
ねだったのは俺だ、なのに。
ずっと、俺を大事にしてくれているままだった。
だから今はこんなにも満ちて。
「子供はさ、結局、まだ作ってないんだけどさ、でも……」
子供の作り方はわかっているのだ。
今、腹に溜まっているフィムの魔力を練って、望めばいい。
それできっと子供になるだろう。けど。
「今は、そこまで焦らなくていいかな、って思ってる」
もう少しこのまま、子供にはせず、フィムの魔力を俺だけで抱えていたいと。
俺だけのものにしておきたいと。
「急に、ねだってごめんな?」
もっと、大事にしたってよかった、俺たちの初めてを、俺の我が儘で押し切った。
今更、ちょっとだけ申し訳なくなってきた俺に、フィムは微笑んで。
「いいよ。構わない。アーシャ、今なんだか満足そうな顔してるし、俺がそんな顔させられたんなら、それでいい」
アーシャが欲しかったのは俺の方も、だしね。
なんて、どこか悪戯っぽく俺の耳元で囁いてくる。
それもまた、くすぐったくて。
俺はやっぱりくすくすと笑った。
「なぁ、なぁ、フィム、フィム」
幼子みたいに名を呼んだ。
「俺、フィムでよかった。前世を思い出して、目の前にいたのがフィムでさ。それで、俺の婚約者がフィムでよかった」
幸福にくすくすと笑いながら囁き返す。
ベッドの中で向かい合って、抱き合って。
この場所には今、幸いだけが満ちていた。
でも、なんて言ってみたのは、この場所があまりに満ち足りすぎていたからだろう。
もともとフィムにねだった、一番初めの希望も決して嘘や偽りなんかではなかったから。
「もうちょっとしたら、やっぱり子供、作ろうな」
子供を持ちたい気持ちは、やはり俺の中にあるままなので。
そうしたらフィムは一瞬、きょとと目を瞬かせたかと思うと、次の瞬間には噴き出して。
ひとしきりくすくすと笑ってから小さく笑んだ。
「いいよ。でもそれはせめて、アーシャがもう少し大きくなれてからね」
条件付きの了承に、俺が小さく口を尖らせたのは、半分はただのポーズ。
フィムの意見に、概ね俺も同意ではあるから。けれど。
「んもう、待ち切れないって言ってるのにさ。でも、それまでにもいっぱい『仲よく』しような」
こういうことも、もっとしよう。
そうしたらフィムの気持ちも変わるかもしれないし、なんて。そもそも、子供は俺の意思一つですぐにも作れるというのに、作りもせず、口先だけでそうねだる俺を、フィムはいったいどう受け止めたのだろう。
きっと悪くは思っていないと思う、だって、俺を抱きしめるフィムの腕に力が込められたから。
ああ、フィム。
幸福に酔って、最愛と抱き合いながら俺は笑った。
これは本当に只の戯れ。
どうやらもう少しだけ、子供が欲しい俺と、心配するフィムのやり取りは、続けられそうだ、そう思ったのは、そのやり取り自体が、フィムと俺の気持ちの交感みたいに感じられ仕方なくて。
そこにはただ、愛しさだけが満ちていた。
Fine.
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