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 一体どれだけそうして、フィ厶の指を感じていただろうか。
 気が遠くなるほど長く思えたが、本当はどうだったのか、俺にはよくわからなかった。
 ただ、わかったのはフィムが俺から少し体を離して。
 ぶちゅ、はしたない水音の後、フィムの指が俺の中から抜けていく。
 と、思えば直ぐに当てられた火傷しそうにあつい熱。
 それが一体なんなのか、理解した瞬間、襲いかかってきたのは名状しがたい衝撃だった。

「あ、あ、ぁぁああああっ……!!」

 自分の喉から信じられないような声が上がる。
 耳元では、

「ぅっ、くぅっ……!」

 フィムの苦しそうな息。
 ああ、フィム。
 何もかもよくわからなくなりそうな中、俺は必死にフィムにしがみついた。
 腕には疾うに力なんか入らなくなっていたのに、それでもなんとか腕を伸ばして。
 自分からフィムを引き寄せるように、不格好に抱きつく。
 そうすると余計に深く、フィムが感じられて。

「あ、あ、あ、あぁ……っ!」

 今にも途絶えてしまいそうな声。
 これは何、今、聞こえてるのは何。
 今、俺に触れているのは。
 ああ、フィム。
 自分が声を上げていることすら理解出来ないでいる中で、けれど不思議と、痛い、とは思わなかった。
 ただわかるのは衝撃と熱さだけ。
 熱くて熱くてたまらない。
 フィムはそのまましばらく止まって、俺が落ち着くのを待ってくれている。
 とはいえ、ちっとも落ち着けるわけなんてなかったけど、でも。
 フィム。
 今、俺の中にフィムがいる。
 それがその内にわかるようになっていって。
 そうしたら、じわじわと、段々と多幸感に満たされていく。
 ああ、フィム、フィム、フィム。
 俺は今、フィムでいっぱいだ、フィム。
 セックスに憧れがあった。
 前世からずっと、望んでいた。
 誰かと、否、自分が好きになれた相手と。求め合って、愛し合ってみたいと。
 ただの性欲ではない。もちろん、それもあるけれど、それだけではなくて。
 望んでいたものが、求めていたものが得られた気がした。
 俺の全部、隅々までが満たされていく。
 ああ、フィム。

「あ、あ、や、ぁあっ! あっ、あっ、ぁっ、やっ、あぁんっ、あぁっ、」

 いつの間にか動き出したフィムのに合わせて、意識の外で声が出た。
 意味なんてない、ただ、漏れる息が喘ぎとなっただけのそれ。
 揺れる視界の中で、フィムの苦しそうな顔が滲む。
 眩んだままの思考がもっといっそう鈍くなって。
 俺の腹をみちみちに押し広げるフィムの凶暴なほどの雄は、けれど決して乱暴でなんてなくて。
 フィムと繋がっているところから溶けだしてしまいそうだった。
 ああ、フィム。
 俺、知らなかった。
 憧れていた、性行為。
 なかば衝動的にフィムに強請った。
 そうしなければいけない気がして。
 せっかく異世界で、男同士でも、結婚もできれば子供も産める。
 その上、相手は目の前にいて婚約者で、信じられないぐらいかっこよくて。だから。
 もしかしたら一目惚れだったのかもしれない。
 手を伸ばさずにはいられないぐらい、強烈にフィムが欲しくなったんだ。
 だからねだった。
 でも俺は全然知らなかった。
 好きな相手と。
 ううん、フィムと。
 交わす、この行為がこんなにも幸せを感じられるものだったなんて。
 フィム。

「あぁぁあああぁぁああっ!!!」

 散々に揺さぶられて貪られた先で。ついにはフィムの熱情を、胎の奥で受けた時には。そもそも、初めに口にしていたはずの子供云々のことなんて、もうすっかりわからなくなってしまっていたのだった。
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