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しおりを挟むキスが、初めてだったのだ。
当然、唇を舌で開かされたことも、ましてや口の中を誰かに舐められたことなんてない。
舌で舌に触れる、初めて感じた、唾液の絡んだぬるぬるとした感触に、俺はやっぱり初めてと思われる興奮を覚えていた。
前世でなら自慰、つまりオナニーの経験はあるし、達する感覚もわかる。はずだ。
興奮もしたことはある、はずなのに違う。
今まで俺が知っていたことは、ただの反射だったのだと思い知る。
だってこんなにも熱くて、ドキドキして、ずくずくして。体の奥が疼いて、もっと欲しいと感じるなんて。
唾液に混じった、フィムの魔力が濃い。
粘度を伴って、俺に入ってくる。
自分以外の誰かの魔力を注がれる時特有の、くらくらするような酩酊感。
これまで経験したことのある、治癒魔術を行使される時だとかの、他者の魔力を受け入れる時に覚えた違和感と、きっと同じもののはずなのに違う。
だって、こんなに濃くて熱くて多いなんて。
そんなの、本当に経験がない。
否、きっと生まれる前や生まれたばかりの頃、存在を安定させるために、母親から受けていた授乳と同じか、それよりずっと濃くて甘いからなのだろう。流石に、そんなに小さな頃の記憶はないし、だから、意識としてはやっぱり本当に初めてで。
そう、甘い。甘いのだ。
こんなにも甘く感じるのは、フィムが俺を求めてくれているからに違いない。
フィムの感情が俺に、フィムの魔力を甘く感じさせている。そうとしか思えなかった。
だって、これまで授業だとかでそんなことを習ったことがあって、ああ、これが、と、今、初めて実感しているのだ。
頭の何処かが冷静にそんなことを考えている一方、ふわふわと俺の中がフィムでいっぱいになっていくのも本当で。
俺の口は体格に見合って大きくはないから、口ごと全部、フィムに食べられているかのようだった。
すっぽりとフィムのそれに入ってしまうのだ。
吐く息も余さず貪られて。
「ん、ん、ん、ふ、んんっ……! ぁんっ、」
唇を塞がれているから、漏れるのは鼻にかかったような喘ぎだけ。
俺と、そして俺よりは微かだけどフィムのそれ。
二人、意図せずに喘ぎながら舌を絡め続けた。
いつの間にか、俺の体は力が全く入らなくなってしまっていて、フィムにすっかり全身を預けきっている。
口の中を、フィムの分厚い舌でいっぱいにして、それ以上にもっと、体全部をフィムの気配でいっぱいに満たして。
ああ、フィム、フィム、フィム。
自分がいったい今、どんな状態になっているのかがもうよくわからない。
ただ、気持ちよくて、熱くて、熱くて。
「ぁっ、ぁあっ……ん、ぁ!」
腰かけていたはずのベッドの上に押し倒され、覆い被さられて。
唇がいつの間にか解放されていたことにも気づかず、俺はただ、ぼやけた思考のまま、声を上げていた。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁあっ……!」
着ていた寝間着を、いったいいつ、剥ぎ取られてしまったのか。
フィムの手が、俺の素肌に直接触れて。手のひらの熱さに思考全部が、支配されるかのようだった。
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