4 / 11
4
しおりを挟むフィムの顔は険しく、苦しげで、きっと、だからこそ、これまで見たこともない必死さが真っ直ぐに伝わってくる。
「アーシャのことを受け入れられないだとか、そんなわけがない。そりゃ、確かに、今のアーシャは変わってしまっていることは間違いない。俺も……すまない、正直、まだ混乱している部分があるんだ、でも」
でも。
俺はフィムのベッドに腰かけている。そしてフィムはそんな俺の目の前にいた。
床に膝をついて視線を合わせ、俺の様子を窺っているから、逆にフィムの様子だって、俺にはよく見える。
見惚れてしまうぐらい、凄く、かっこいい男らしいその顔も。
灯りが煌々と部屋を照らし、フィムの緑色の髪も、鮮やかに俺の目に映している。
癖の少ないフィムの髪は、俺より少しだけ硬くって、その感触を思い出したからか、俺は誘われるようにフィムへと手を伸ばしていた。
髪の端をちょんと摘まんだのは、もしかしたら、苦しげなフィムを、慰めたいと咄嗟に思ったからかもしれない。
自分でもよくわからないれの指先の動きに、フィムはいったい何を見たのだろう、そっと一瞬、閉じられた瞼が再び開いて、改めて俺を見つめてくるフィムの瞳の中には、なんだか情けない顔をした俺が映っている。
前世より多分、可愛い、と思うけれど、決してかっこよかったりはしない幼い顔立ち。
俺の、やはり異世界だと思わずにはいられない、赤みの強いピンクがかった濃い金髪は肩を少し越すぐらいにまで伸ばされていて、少しだけ毛先がくるくるしていた。
零れ落ちそうな大きな目も相俟って、まるで女の子みたいだ。
この見た目も、両親や兄姉が俺を褒めそやす要素の一つなのだけれど、前世を思い出した今となっては、もう少し男らしくなりたいなんて思ってしまう。
否、フィムがこんな方向性の容姿のままの方がいいというなら、それはそれでやぶさかではないのだけれど。
フィムが俺を見る。真っ直ぐに、必死に、縋るように。
「アーシャ。俺がどれだけお前を求め続けてきたと思ってるんだ。俺がお前を少しだって、ダメだなんて言えるもんか。でも、だから、俺はただお前が心配なんだ。お前はこれまでセックス、だとかそういうことにずっと疎かったじゃないか。それがいきなり……子供、だって? 子供を作る、ってことがどういうことか、お前、本当にわかっているのか?」
嫌なわけではない、嫌なわけではないと繰り返しながらそんなことを言うフィムに、俺はやっぱり少し面白くない気持ちにならざるを得なかった。
「俺の話、聞いてなかったのか? わかってるって。今は、わかってる。前世では成人してたんだぞ? いや、今も成人してるけど。さっき言ったじゃないか、前世では自慰もしてたんだってば。尻の中に色々入れたこと、ある。だからセックスだってわかってるよ。俺の尻にフィムの男性器を突っ込んで、俺の胎の中に、魔力を注ぐんだ。それで、俺が注がれたフィムの魔力と俺の魔力を混ぜ合わせて、練って、子供にする。ちゃんとわかってる。俺、魔力操作苦手じゃないし、出来ると思う。いや、もしかしたら今晩一回じゃ足りないかもしれないけど、でもできる。俺は確かに今、小さいし、フィムとは体格差があるけど、でも、じゃあ俺が育つまでってなったら、いったいいつになるって言うんだ。俺は魔力が成熟しきってない、本当の子供じゃない。小さいのは見た目だけだ。体格差があるって言うだけだと、受け入れられない理由にはならない。そりゃ、きっとすぐに大きくなれる、それもわかってるよ、でも俺はそんなの待てない。今すぐ、フィムが欲しいんだ」
勢い、と言ってしまえば否定できない。
けれど、俺が今すぐフィムが欲しい、その願いの切実さも決して間違ってなんかいなかった。
好奇心がある。
誰かと愛し合いたかったという前世からの渇望も。
経験は、ずっとしてみたかったから。
好きな相手が出来れば、いつかは、なんて夢見ていたから。
でも理由はそれだけじゃない。
俺はきっと、そう、多分、不安だった。
さっきまでの俺とは間違いなく変わってしまった俺を、フィムに受け入れて欲しい、今の俺を求めて欲しい。
今ならフィムに応えられるから。俺からだって求められるから。だから。
そんな俺にどう思ったのか、フィムは泣きそうに顔を歪めて、だけど。
「アーシャ……本当に、いいんだな?」
そう、確かめてきたから、俺ははっきりと、フィムの目を見て。
「ああ、フィム。フィムが、欲しいんだ。俺に与えてくれ」
フィム。
そう、祈るように、頷いたのだった。
185
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。

龍神様は大事な宝玉を昔無くしたらしい。その大事な宝玉、オートマタの俺の心臓なんですけど!?
ミクリ21 (新)
BL
オートマタの俺は、普通の人間みたいに考えたり喋ったり動く。
そんな俺の心臓はとある宝玉だ。
ある日、龍神様が大事な宝玉を昔無くしたから探しているとやってきた。
……俺の心臓がその宝玉だけど、返す=俺終了のお知らせなので返せません!!


悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる