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 フィムの顔は険しく、苦しげで、きっと、だからこそ、これまで見たこともない必死さが真っ直ぐに伝わってくる。

「アーシャのことを受け入れられないだとか、そんなわけがない。そりゃ、確かに、今のアーシャは変わってしまっていることは間違いない。俺も……すまない、正直、まだ混乱している部分があるんだ、でも」

 でも。
 俺はフィムのベッドに腰かけている。そしてフィムはそんな俺の目の前にいた。
 床に膝をついて視線を合わせ、俺の様子を窺っているから、逆にフィムの様子だって、俺にはよく見える。
 見惚れてしまうぐらい、凄く、かっこいい男らしいその顔も。
 灯りが煌々と部屋を照らし、フィムの緑色の髪も、鮮やかに俺の目に映している。
 癖の少ないフィムの髪は、俺より少しだけ硬くって、その感触を思い出したからか、俺は誘われるようにフィムへと手を伸ばしていた。
 髪の端をちょんと摘まんだのは、もしかしたら、苦しげなフィムを、慰めたいと咄嗟に思ったからかもしれない。
 自分でもよくわからないれの指先の動きに、フィムはいったい何を見たのだろう、そっと一瞬、閉じられた瞼が再び開いて、改めて俺を見つめてくるフィムの瞳の中には、なんだか情けない顔をした俺が映っている。
 前世より多分、可愛い、と思うけれど、決してかっこよかったりはしない幼い顔立ち。
 俺の、やはり異世界だと思わずにはいられない、赤みの強いピンクがかった濃い金髪は肩を少し越すぐらいにまで伸ばされていて、少しだけ毛先がくるくるしていた。
 零れ落ちそうな大きな目も相俟って、まるで女の子みたいだ。
 この見た目も、両親や兄姉が俺を褒めそやす要素の一つなのだけれど、前世を思い出した今となっては、もう少し男らしくなりたいなんて思ってしまう。
 否、フィムがこんな方向性の容姿のままの方がいいというなら、それはそれでやぶさかではないのだけれど。
 フィムが俺を見る。真っ直ぐに、必死に、縋るように。

「アーシャ。俺がどれだけお前を求め続けてきたと思ってるんだ。俺がお前を少しだって、ダメだなんて言えるもんか。でも、だから、俺はただお前が心配なんだ。お前はこれまでセックス、だとかそういうことにずっと疎かったじゃないか。それがいきなり……子供、だって? 子供を作る、ってことがどういうことか、お前、本当にわかっているのか?」

 嫌なわけではない、嫌なわけではないと繰り返しながらそんなことを言うフィムに、俺はやっぱり少し面白くない気持ちにならざるを得なかった。

「俺の話、聞いてなかったのか? わかってるって。今は、わかってる。前世では成人してたんだぞ? いや、今も成人してるけど。さっき言ったじゃないか、前世では自慰もしてたんだってば。尻の中に色々入れたこと、ある。だからセックスだってわかってるよ。俺の尻にフィムの男性器を突っ込んで、俺の胎の中に、魔力を注ぐんだ。それで、俺が注がれたフィムの魔力と俺の魔力を混ぜ合わせて、練って、子供にする。ちゃんとわかってる。俺、魔力操作苦手じゃないし、出来ると思う。いや、もしかしたら今晩一回じゃ足りないかもしれないけど、でもできる。俺は確かに今、小さいし、フィムとは体格差があるけど、でも、じゃあ俺が育つまでってなったら、いったいいつになるって言うんだ。俺は魔力が成熟しきってない、本当の子供じゃない。小さいのは見た目だけだ。体格差があるって言うだけだと、受け入れられない理由にはならない。そりゃ、きっとすぐに大きくなれる、それもわかってるよ、でも俺はそんなの待てない。今すぐ、フィムが欲しいんだ」

 勢い、と言ってしまえば否定できない。
 けれど、俺が今すぐフィムが欲しい、その願いの切実さも決して間違ってなんかいなかった。
 好奇心がある。
 誰かと愛し合いたかったという前世からの渇望も。
 経験は、ずっとしてみたかったから。
 好きな相手が出来れば、いつかは、なんて夢見ていたから。
 でも理由はそれだけじゃない。
 俺はきっと、そう、多分、不安だった。
 さっきまでの俺とは間違いなく変わってしまった俺を、フィムに受け入れて欲しい、今の俺を求めて欲しい。
 今ならフィムに応えられるから。俺からだって求められるから。だから。
 そんな俺にどう思ったのか、フィムは泣きそうに顔を歪めて、だけど。

「アーシャ……本当に、いいんだな?」

 そう、確かめてきたから、俺ははっきりと、フィムの目を見て。

「ああ、フィム。フィムが、欲しいんだ。俺に与えてくれ」

 フィム。

 そう、祈るように、頷いたのだった。
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