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05・青天の霹靂、そうでなくば②
しおりを挟む怖かった。
どうしてこんなことになったのか、全く何もわからない。
ただ、今、俺の上にはラーグがいて、ラーグは笑っていて、けれど眼差しだけが、笑っていなくて。
ああ。思い出す。
ラーグ、ラーグ。これまでの、彼を。
俺とラーグが初めて会ったのは、俺がこの国へと預けられることになった時。それは俺とラーグが、一応は婚約者ということになった、25年前のことだった。
俺は僅か4歳。俺とラーグは同じ年だから、やはりラーグも4つ。物事の分別も、まだはっきりとは付けられないような幼い頃。
初めの印象は、どんなものだったろうか。あまり良くは覚えていないが、そう、確か、キレイ。そう、思ったんだったような気がする。
幼い頃のラーグは、言葉に出来ないほどに、可愛らしかったのだから。……――今では逞しさばかりが育ってしまっているけれども。幼い頃は、違っていた。
艶やかな光を弾く紫色の髪。澄んだ新緑のような翠色の瞳。
瞳の色は、俺も同じはずなのだけれど、ラーグの方がずっと鮮やかにしか思えなかった。
髪色だって、紫とは言っても決して濃く重い色ではなくて。魔力の多さをうかがわせる鮮やかさをしている。否、それらは今も変わらない。整った造作も、そう大きくは変わっていないのだけれど。
大きな目と、長い睫毛、真っ白なまろい頬。少しだけ潤みがちな眼差しで見つめられると、守らなければ、と思ったりして。弱々しいところが、合ったわけではないのだけれど、俺よりも少しだけ泣き虫だったから。
ラーグの両親は仲が良いけれど、母である叔父は少しぼんやりしたところがあり、父たる王配はそれに反して過ぎるほどに厳しかった。否、正しくは、関心の大半が叔父にしか向いていなかったのだ。
子供への興味が少しばかり薄く、甘えさせるようなこともない。
加えて国王と宰相として、国を立ち行かせていかなければならなかった。単純に忙しかったというのもあるのだろう。愛していないだとか、可愛がっていないだとか言うわけでもなかったのだろうか、接する時間はどうしたって少なくて。
周りに人がいても、本当の意味で頼れる者なんていない。
侍女が侍従、子守係が付いていたって、どうしても親には敵わない。
反動なのかラーグは少しばかり甘えたで、泣き虫で、出会って以降は、俺から離れようとはしなかった。
つまり、おそらく、ラーグは寂しい子供だったのだろう。
そして俺も同じように、やはり寂しい子供だった。
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