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04・青天の霹靂、そうでなくば①

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「ティナ、ティナ、何故そんなことを言うんだ。俺たちは婚約者同士だろう? そりゃ、少しばかり遅れはしたが、いずれは婚姻を結ぶ間柄じゃないか。まさかお前まで離れていくなんて言うんじゃないだろうな。……――ルーシャのように」

 ティナ、とは俺の愛称だ。リスティナシア・ミリスディーセ・ダリナディン。父である隣国の王弟が起こした、ダリナディン公爵家の唯一の嫡子。
 同時に母国・・でなど、育てられることのなかった、ラーグの従兄弟。彼の婚約者。
 そう、ラーグが今、俺を見下ろしながら、歪んだ笑みで言い放った言葉は何も間違ってなんていない。間違ってはいないのだけれど。でも。

「離れる、なんて、そんな……そういう、話じゃない」

 初めて向けられる強い眼差しに、俺は内心で怖気づきながらも、努めて平常を装って返事を返した。つい、視線を逸らしてしまったのは、疚しいことがあるからではなく、ラーグと目を合わせ続けていると、視線で焼き殺されてしまいそうに思えたからだ。
 俺たち二人が共通で使っている、居間のような一室。
 俺たちは婚約者同士だというのもあって、元より部屋は隣同士となっている。そしてこの部屋のように、二人の私室の間に、二人共通の居間のような部屋をいくつか持っていた。
 くつろぐ為のそれ、座り慣れた、居心地のいい応接セット、そのソファ。
 確か、ほんのつい今まで、ラーグは向かい側の席に座っていたはず。
 夕食後、寝るまでには少し時間があって、特に何か用があるわけでもなく、二人、それぞれ読書をしたり、届けられた手紙を確かめたりしながら用意されたお茶のカップを傾けていて、それで……――それで。
 いったいどんな話の流れだったのか。否、話の流れも何もない、突然、ラーグが言ったのだ。先程のよう、つまり、

「なぁ、そろそろ結婚するか?」

 なんて、そう。
 それに俺は、

「………冗談だろ?」

 と返して、それで。そうしたらラーグは一瞬、あっけにとられた顔をして俺を見たかと思うと、次の瞬間、ぐっと気配を尖らせたのである。
 かと思えば、飛び掛かるようにして、俺たちの間にあった机を跨ぐと俺を乱暴にソファへと押し倒して、そして。

「ティナ。なんで目を逸らすんだ。冗談、なんて。それこそ冗談だろう? なぁ? そうだよな? ティナ」

 にっこりと、全く笑っていない眼差しで俺を見下ろし、俺へと手を伸ばしてきているのだった。
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