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しおりを挟むシェラが他と違う所なんて、それこそ、前世で好きだったBL小説の主人公そのものであるというただそれだけしかない。
同じ学園に通っていた同学年の生徒というのもあるだろうか。
それだって、中途半端に前世で読んだ小説のことを夢に見たりしなかったら、親しくなんてならなかったと思う。
きっと声もかけなかった。
そう言った諸々を踏まえて、唯一の友人だと言ってもいいのかもしれないが、だからと言って、こんな風、視界から居なくなるだけで不安になるだなんて。
こんなもの、依存以外のなんだというのだろう。
友人にこうして依存する、それ自体どう考えたってやっぱりおかしい。
俺が今、特別に思う一番はシェラとラティだ。
勿論、シェラとラティとでは、向けている感情は全く違う。
好意ではあっても、それらは決して同じではない。
なのに俺の中では同じ強さで並んでいた。
一口に執着と言っても、これが例えばラティなら。
ラティに依存しているというのなら、理解できるのだ。
と、いうか、シェラと親しくなる前は、むしろ正しくラティに依存していたのではないかとさえ思う。
もっとも、正しくはラティに導かれるままに、彼へと心を傾けていたというだけなのだけれども。
ラティは幼い頃からの婚約者で、元々ずっと俺を望んでくれていて、そこに宿る執着は怖いほど。
そんないっそ怖くてもおかしくはないラティからの執着を、だけど俺はどこかで嬉しいと思っている。
その感情に違和感はなかった。だけど。
(シェラへの依存は、なんだか違うようにしか思えない)
それは、約三ヶ月ぶりにシェラの顔を見て、変わらない慕わしさを覚えて、そしてシェラが一時退室する、たったそれだけでわけのわからない不安に駆られたことを自覚したら、尚更強く感じられた。
シェラが近くにいないおよそ三ヶ月の間、こんな衝動など覚えなかったからこそ余計に。
いなかった三ヶ月間を取り戻そうとでもするかのように、否、だけど、ほんの僅か他の侍従に所作の近づいただけの、ほとんど変わった様子の見られないシェラは俺のすぐ傍に控えて、可能な限り俺の意を汲み、世話を焼こうとしてくれていた。
そこに何か他意があるようにはまったく見えない。
なら、この、わけのわからない慕わしさはシェラ自身には原因がないということになる。
あくまでも俺の内情の問題。
それ以外になんて考えられない。
はず、なのに。
(どうしてっ……――!)
俺はこんなにも飲み込めないままなのか。
シェラはこの三ヶ月で幼い子供への接し方なども学んできてくれたのだと聞いている。
それはつまり生まれた子供の世話がシェラの業務に今後含まれていくということ。
そのこと自体は、何もおかしなことではない。
むしろ他の侍従や侍女たちは元から出来ること前提でいてくれているようなことだ。
元々侍従となる予定のなかった、侍従教育が充分と言い難かったシェラは、今回それらを学び直してきたにすぎない。
必然、今後は子供をシェラに預ける可能性が出てくることが想定されている。
もちろん、子供には子供の専属の世話係がいるので、そちらが優先されるし、考えられる一番多いだろう場面は、俺とその世話係との間の、いわば橋渡しのようなものとなるだろう。
子供を、俺の腕から受け取って、その世話係に渡すというような。あるいはその逆だとか。だけど。
(俺はシェラに、子供を手渡したくないと思っている……)
シェラには、触れられたくないと。
シェラを前にして覚える安堵の理由さえ変わらずわからないまま、それは新たに自覚した、やはり自分自身でも理解できない感情だった。
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