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しおりを挟む僅かなりとも機嫌を悪くしたラティに食い下がって、何とか考えてもらった提案は、近く控える出産を理由に、その後の育児を見据えて再研修を行うという口実を使用してシェラを一時的に遠ざけるというものだった。
当然これでは一時しのぎにしかならないし、根本的解決になんてなりようがない。
しかし、猶予が出来るのは間違いなかったし、それ以上なんて思い浮かぶわけがなくて。
何よりラティなりに、俺の意図を汲んでくれたのだろうことも嬉しかった。
「君は以前より我儘になったみたいだね」
なんて言われてもまったく気になったりしない。
だってそんな言葉を口にしたラティは、だけど俺のことを愛しくて仕方がないと言わんばかりの眼差しで見つめてきていたのだから、どうして何を気に出来るというのだろう。
剰え、
「悪くない変化だと思うよ。以前の君は、少しばかり控えめすぎたから。勿論、そんな君も可愛かったのだけど」
だなんて言われたら!
赤くなる頬をどうして止められるというのだろう。
ちなみに、
「ああ、今の君だってまた違った可愛らしさがあるよ。どんな君だって、君であることに変わりはないのだから」
という、フォローだか何だかわからない発言もセットである。
とにかくラティは、俺が俺であればそれで良く、どんな俺でも可愛くて愛しくてならないという話であるらしかった。
愛されていると思う。幸せだと。
それはいっそ怖いくらいに。
(幸せなのが怖いだなんて、初めて知った……)
俺は不幸だった覚えなんてない。
前世も、そして今、前世を思い出す前も思い出してからも。
なのに、今が一番幸せだって思うこの感情は何なのだろうか。
もうじき子供が生まれる。
前世も男だった俺からすると、当たり前のことながら未知の経験で、それはルニアになってからも同じだ。
なにせ初めての子供なのだ。
この世界に生まれ変わらなければ、経験するはずのない出来事だった。
(不安がないと言えば嘘だ。でも、)
不思議と怖いとは思っていない。
ラティがいるなら安心できる、そう思うし、情緒が乱される要因だと思われるシェラからも、一時的とはいえ離れられる。
それにどこかほっとしてしまっているのもまた事実だった。
(シェラには悪いとは思うんだ)
とは言え、猶予のようなものが出来たのは正直助かる話で。
ラティ曰く、不自然でない期間なら子供が生まれて、1ヶ月か、延ばせて2か月ほどなのだという。
もちろん、あくまでも名目は研修なので、その研修の結果次第ではあるらしいのだけれど。
ただ、シェラは決して愚鈍ではない。
きっと期間内にきっちり研修を終わらせることだろうと思われた。
(その間に、このおかしな情動の理由がわかればいいのだけれど)
思いながらラティの腕の中、心地よく目を閉じた俺は知らない。
そもそも、この世界において出産前後というものは、伴侶以外に触れられることそのものに忌避感を覚えるものであるし、また伴侶側からしても、自分以外に触れさせることを厭うのはある意味当然であるということを。
そして、また、より多く必要となった魔力ゆえにつまり、ラティにこれまで以上に放してもらえなくなるということを。
つまりは碌に思考など巡らせる余裕など持てないだろうということで。
それに気付くのは子供が生まれてから二ヶ月経ち、シェラが傍近く、戻ってきてからのことだった。
ちなみに、シェラを前にすると不安定になる情緒に変化が見られないままだったのは言うまでもない。
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