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しおりを挟むこれが、シェラが側にいて、一時的にも退室するという状況だと話が変わってくるのである。
いったいどこにいるのか、気配を探ってみようとしてやめる。
昨日同じようにして、シェラの気配を察した途端、その距離の遠さにわけのわからない不安が襲ってきたことを思い出したからだった。
シェラがいたのはおそらく、厨房の辺りだったと思う。
昼食か軽食か。いずれかを取りに行っていたのだか、手配しに行っていたのだか。
何か他に相談があったのかもしれない。
それぐらい、侍従の仕事の範囲内だろう、だが厨房はこの部屋からだと棟を挟んで一つ先、更に階も違っていて。
なにぶん王宮は広いので、戻るのに数分はかかるだろうと思われる場所だった。
たったそれだけの距離が途方もなく感じ、わけのわからない不安感に襲われたのである。
それは自分でも理解できない衝動で、実際にシェラが近くへと戻るまで、治まることもなく、自分で自分を持て余すばかり。
それと同じ状況になど、成りたいわけがない。
ため息を吐いて体を起こす。
俺の様子を察したシェラではない、だけどいつも付いてくれている侍従の一人が、さりげなく、俺の背にクッションを重ねるなど、手助けしてくれた。
「ありがとう」
力なく、だけど確かに微笑んで礼を言うと、安定した俺の様子にだろう、侍従がどこか安堵した様子を見せ、
「いいえ」
にこと控えめに微笑み返してくれる。
シェラほど近しく感じられない態度は、しかし侍従として何もおかしなものではない。
否、シェラが特別なだけである。
とは言え、いったい何の用事で席を外しているのだかわからないが、だけどシェラはすぐに戻ってくることだろう。
先に戻ってくるのが、ラティならばいいのにと微かに思う。
なんとなく気になって時計を確認した。
昼、少し前。
もうじきラティが戻る時間だった。
ああ、ならば。
慎重に自分の状態を確認すると、気怠さは残るものの、立ち歩けないほどではない。
昼食は隣の今のような部屋で摂れそうだと移動することにする。
「お起きになられるのですか?」
「ああ。隣のソファに」
「かしこまりました」
確かめられ、頷き、そのまま介助されるに任せた。
俺が身に着けていたのは、すぐにも脱げるような薄い寝間着一枚。
裸でないだけましだろうかとちらと思った。
魔法やら魔術やらのおかげか、あるいは俺の意識がない間にラティが風呂にでも入れてくれたのか、不快な感触などは特にない。
きっと無駄だろうことがわかっていたので、着替えの必要も特に感じたりしなかった。
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