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しおりを挟む正直、実際に相対するまで、自分がここまで不安に思っているとは認識していなかった。
それは決して、勘違いでもなかったとも思う。
だって俺は俺だ、以前とは違う、なのに。
「すまない、だけど、俺……」
不安、だったのとは違う。
そのはずだ。
だけど安心した。もう決して、目の届く範囲から居なくなってほしくない、そう思う程に。
シェラが近くにいないと、俺は不安でどうにかなってしまうのではないかと思っている自分がいる。
間違いなく、今までのルニアの感情だった。
全てを思い出して、どうしてか、言葉に出来ないほど引きずられているようだと自覚する。
シェラが、俺を抱きしめてくれている、その腕の力が僅かばかり強まった。
「ああ、ルニア様、大丈夫、大丈夫ですよ。僕はずっとお傍におります。何も不安に思われることはございません。何処かに行ってしまったりなんて致しませんから、ね?」
幼い子供を宥めるような柔らかい声。
何度も聞いてきた声だった。
侍従とその主人と思えばあからさまに距離が近い。
だけど本当はこれが俺たちの『普通』だ。
少なくとも、あの夜会の後、シェラが侍従になってからは。
シェラの声にほんの少しだけ、安堵と喜色が混じっているように思えるのは何故だろうか。
シェラの慣れた温かな体温に包まれながら、俺は同時に心の中で努めて冷静にシェラの反応について考えていた。
どうしてだろう、シェラの様子が、今までとは違うように思える。
こんな風に、支えるを通り越して抱きしめるだなんて。
たとえその触れ方が幼い子供に対する者のようであっても、侍従としてどう考えても近すぎる距離間。
俺が前世を思い出して、昨日倒れ、少し前に目覚め、欠けていた記憶を思い出す前までの間の数か月間とはあまりにも明確に違っているのだ。
その違いに思い当たることがなくもない。
他でもない、俺自身の眼差しだ。
シェラを目にしてどうしてだろう、自然浮かべてしまった、情けなく縋るようなそれ。……――今まで幾度となく、シェラに向けてきた眼差しだった。
多分シェラは、俺のそんな眼差しに自然、当たり前に対応しただけなのだろう。
自分でも自覚している、おそらく俺は、今までとは違う様子でシェラを見ていると。
だから。だけど。
(なんでそれを、喜ぶんだ?)
前世を思い出して。その代わりのように記憶の一部を失くしていた俺を、シェラなりに不安に思っていたということなのだろうか。
なんとなくもやもやするものを感じ、すっきりしないのだが、しかしだからと言って今、シェラを突き放してしまえるわけもない。
それどころか放さないで欲しいと思っている。
自分でも異常だとしか思えない、あからさまなほどの『依存』だった。
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