117 / 141
30-3
しおりを挟む正直、実際に相対するまで、自分がここまで不安に思っているとは認識していなかった。
それは決して、勘違いでもなかったとも思う。
だって俺は俺だ、以前とは違う、なのに。
「すまない、だけど、俺……」
不安、だったのとは違う。
そのはずだ。
だけど安心した。もう決して、目の届く範囲から居なくなってほしくない、そう思う程に。
シェラが近くにいないと、俺は不安でどうにかなってしまうのではないかと思っている自分がいる。
間違いなく、今までのルニアの感情だった。
全てを思い出して、どうしてか、言葉に出来ないほど引きずられているようだと自覚する。
シェラが、俺を抱きしめてくれている、その腕の力が僅かばかり強まった。
「ああ、ルニア様、大丈夫、大丈夫ですよ。僕はずっとお傍におります。何も不安に思われることはございません。何処かに行ってしまったりなんて致しませんから、ね?」
幼い子供を宥めるような柔らかい声。
何度も聞いてきた声だった。
侍従とその主人と思えばあからさまに距離が近い。
だけど本当はこれが俺たちの『普通』だ。
少なくとも、あの夜会の後、シェラが侍従になってからは。
シェラの声にほんの少しだけ、安堵と喜色が混じっているように思えるのは何故だろうか。
シェラの慣れた温かな体温に包まれながら、俺は同時に心の中で努めて冷静にシェラの反応について考えていた。
どうしてだろう、シェラの様子が、今までとは違うように思える。
こんな風に、支えるを通り越して抱きしめるだなんて。
たとえその触れ方が幼い子供に対する者のようであっても、侍従としてどう考えても近すぎる距離間。
俺が前世を思い出して、昨日倒れ、少し前に目覚め、欠けていた記憶を思い出す前までの間の数か月間とはあまりにも明確に違っているのだ。
その違いに思い当たることがなくもない。
他でもない、俺自身の眼差しだ。
シェラを目にしてどうしてだろう、自然浮かべてしまった、情けなく縋るようなそれ。……――今まで幾度となく、シェラに向けてきた眼差しだった。
多分シェラは、俺のそんな眼差しに自然、当たり前に対応しただけなのだろう。
自分でも自覚している、おそらく俺は、今までとは違う様子でシェラを見ていると。
だから。だけど。
(なんでそれを、喜ぶんだ?)
前世を思い出して。その代わりのように記憶の一部を失くしていた俺を、シェラなりに不安に思っていたということなのだろうか。
なんとなくもやもやするものを感じ、すっきりしないのだが、しかしだからと言って今、シェラを突き放してしまえるわけもない。
それどころか放さないで欲しいと思っている。
自分でも異常だとしか思えない、あからさまなほどの『依存』だった。
36
お気に入りに追加
2,049
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートの威力はすさまじくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章開始!毎週、月・水・金に投稿予定。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
悪役令息に転生したので、断罪後の生活のために研究を頑張ったら、旦那様に溺愛されました
犬派だんぜん
BL
【完結】
私は、7歳の時に前世の理系女子として生きた記憶を取り戻した。その時気付いたのだ。ここが姉が好きだったBLゲーム『きみこい』の舞台で、自分が主人公をいじめたと断罪される悪役令息だということに。
話の内容を知らないので、断罪を回避する方法が分からない。ならば、断罪後に平穏な生活が送れるように、追放された時に誰か領地にこっそり住まわせてくれるように、得意分野で領に貢献しよう。
そしてストーリーの通り、卒業パーティーで王子から「婚約を破棄する!」と宣言された。さあ、ここからが勝負だ。
元理系が理屈っぽく頑張ります。ハッピーエンドです。(※全26話。視点が入れ代わります)
他サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる